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第二十七話

これは年末に佐藤さんに電話する前の話。

 高校時代の友人、ゆりから連絡があった。

「久しぶり、伊藤ちゃん。元気してる?」 

 久しぶりにゆりからの着信。何年ぶりだろう。声のトーンが少し低いゆりの声を聞いて、会わなければならないと直感的に思った。それが先週のことだった。

「あ!こっちこっち!」

 ゆりはふわふわの巻き髪でロングコートを着て、手を振っていた。私は小さく手をあげた。

「伊藤ちゃん、久しぶり」

 すっかり大人びたゆりは、綺麗な化粧をして服もおしゃれで、モデルさんのようだった。

「ゆりも久しぶり。元気だった?」

「私は……なんとかかな。伊藤ちゃんは?……というか、伊藤ちゃん、ちょっと綺麗になっててびっくり」

「そうかな」

「そうだって!私の記憶、高校生の伊藤ちゃんでとまってるんだもん」

「まぁ、たしかにそうか。ゆりは変わらずかわいいよ。さらに美人になってる」

「ふふっ、ありがとう」

 こんなやりとりに懐かしさを感じながら、とりあえず近くのごはん屋さんでランチでもということになった。

「ねぇ、伊藤ちゃんは今、何の仕事してるの?」

 とりあえず入ったお店で、まずは注文をしてから話し始めた。

「普通に事務の仕事をしてるよ」

 運ばれてきた水を飲みながら、答える。

「そうなんだ、忙しかったりする?」

 ゆりの話を聞きたいところを、ゆりの矢継ぎ早に話してくるので、タイミングがあわなかった。

「どうだろう。最初はなれなくて大変だったけど、今はなんとかやってるよ」

「そういうゆりは?」

 私もゆりが何をしているか聞いてみた。

「えーっと、何から話せばいいのかわからないけど、美容系のお店で働いてる」

「そうなんだ。うん、ゆりっぽい」

 実際、ゆりはきれいになっていた。年齢肌がどれくらいなのかわからないけれど、化粧だけではなく、言葉遣いだったり、仕草だったり、美人には美人の苦労はあるのだろうが、美人はそんな苦労をみせたりはしない。

「そういえば、高校の時さ、伊藤ちゃん、ガトーショコラ作ってくれたよね。あれ、また食べたいな」

 中学校の時に、お菓子作りにはまって、週末はガトーショコラやパウンドケーキのような簡単にできるお菓子作りをしていた。ゆりや高木先輩にも食べてもらっていたことをふと思い出す。

「ガトーショコラかぁ。最近は仕事で忙しくてずっと作ってないなぁ。でも、いきなりどうしたの?」

 ご飯を食べながらなんとなく重い空気になっていくのがわかる。ゆりの笑顔が少し曇っている。

「うん、ちょっとね。いろいろあって疲れちゃったっていうか。^たまに昔に戻れたらなぁと思うこときがあったりするんだ。あ、でもそれはそれで不満があるんだろうけどね」

 無理やり笑顔を作ろうとしているが、ご飯を食べているから顔がよく見えない。

「そうなんだ……ゆりも仕事大変そうだね。休めるときにゆっくり休むんだよ」

 ゆりの現状をあまり知らないこともあり、ありきたりな慰めの言葉しかでてこなかった。

「伊藤ちゃん、やさしい。かわらないなぁ、でもちょっと変わったかな」

 ゆりから見た私は変わったらしい。

「本当に?あまり自分ではわからないな」


 嫌味なく聞こえるゆりの返事は、あの頃のままだが、少し違うようにも聞こえる。

「そんなことないよ。でも、あの頃よりかは少し大人になったかな」

「そうだね。うちらも大人になったよね」

 ひとしきり話をして、日が傾き始めていたことに気がつく。そろそろお開きかなと思っていたとき、ゆりが聞いてきた。

「ねえ、あの先輩って元気?」

 あの先輩とは、高木先輩のことか、渡辺先輩のことか、どちらのことだろうか。

「どっちの先輩?」

 ゆりはどちらの先輩とも面識があったような気がしてとりあえず聞き返す。

「え、どっちって?」

「高木先輩か渡辺先輩」

「えっ、伊藤ちゃん、どっちの先輩もまだ連絡つくの?」

「うん」

 ゆりは驚いていた。卒業式の時に渡辺先輩と連絡交換していたことはゆりには言っていなかったし、意外だったのかもしれない。

「えーすごい!うそ!どっちの先輩も気になる」

 ゆりは興味津々の顔をしていた。少し元気になったのかな?

「ふたりとも元気だよ」

 私はだいぶ前に会った渡辺先輩と、つい最近も会っている高木先輩の顔を思い出す。ふたりとも、なんとか元気でやっていると思う。

「え、二人って付き合ってたりするの?」

 ゆりは最近の二人を知らないから、その後どうなっているかなんて知る由もなく。

「ううん、付き合ってないと思うよ。でも、お互い少しは連絡はとっているみたい」

 そうでなければ、渡辺先輩に会ったあと、高木先輩に会うことはなかったかもしれない。

「そっかぁ、本当に懐かしい。伊藤ちゃんと高木先輩と渡辺先輩。みんなで顔を合わせたらどんな感じになるんだろうなぁ。でももう、あの頃には戻れないものね」

「そうだね。あの頃には戻れないけれど、こうしてゆりと話ができてよかった」

「ねえ、伊藤ちゃん、好きな人いるんじゃない?」

「え」 

 突然のゆりの発言にすぐに否定も肯定もできなかった。

「ごめん、なんとなくそう思っただけだから、違っていたらごめん。気にしないでね」

 窓の向こうを見ながら、ゆりは続ける。

「私さ、好きだった人が遠くにいっちゃって、ちょっと落ち込んでたんだ。だから、伊藤ちゃんから会おうって連絡くれなかったら、きっと会ってなかった。新しい恋は今は考えてないけど、伊藤ちゃんに会ってちょっと元気出た。伊藤ちゃんも、もし好きな人がいるなら二度とあえなくなる前に、ちゃんと言うんだよ」

「また連絡するから」

 ゆりは頑張って会いに来てくれたんだと思った。ゆりと別れてから家路につく間、私は佐藤さんのことを思っていた。佐藤さんと会えなくなるのはさみしいな。ガトーショコラが美味しいお店に行こうと誘ったり、猫の話をしたり、佐藤さんのことがあたまから離れずにいたのだ。

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