第二十五話
プルルル……プルルル……
私はスマホに耳をあてて、接続音を聞いていた。通話ボタンを押すまでだいぶ時間が経過していた。無駄に部屋を片付けたり、身だしなみを整えたり、落ち着かなかった。
「もしもし?」
スマホの向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。私の心臓が少しだけはねた。
「こんばんは」
私は自分でも気づいていないが、少し声が高くなっているらしい。自分の声は相手にはどう聞こえているのだろうか。
「どうした?」
電話の相手は私の電話に驚いている様子もなく、いつもどおりのテンポだ。そのことにとても安心してしまう。
「いえ、もう年末だなと思って」
特に用はないなんて言ったら、きられてしまいそうで、少し話がしたかったと言おうか迷って、年末であることをふと思い出す。
「ああ、そうだな。そういえば、伊藤は実家に帰るのか?」
佐藤さんは私の動揺には気づいていないだろう。電話の声だけではきっとわからないはずだ。
「いえ、実家には帰らない予定です。流行り病もあるし……」
ここ数年の流行病に、世界中が辟易していた。私もその一人だ。
「そうか、俺も今年は帰ろうかどうしようか迷ってる」
「そうなんですね。ご実家はどちらなんですか?」
「秋田」
思いもよらぬ田舎に驚いてしまった。秋田……ずいぶん北国から都会にやってきたんだな。
「秋田、雪国じゃないですか。寒いですか?」
都会っ子の想像なんて乏しいものだ。単純な自分にも恥ずかしくなる。
「そりゃ、めちゃくちゃ寒いし、自然しかないところだよ」
「そんなことないですよ。美味しいものもたくさんあるじゃないですか。秋田かぁ。行ったことがないので、行ってみたいです」
「へぇ、意外だな」
「私、都会育ちなので、自然があるところとか、ちょっと憧れがあるんです」
少し間があった。やはり都会の子の言葉に苛立ちを覚えたのだろうか。なにか話さなければと思っていた時、佐藤さんの口がひらいた。
「そっか、じゃあ、一緒に行ってみる?」
耳に届いた言葉に、私は即答した。
「はい」
「ははっ、即答じゃん。かっこいいな」
「あ、いえ、冗談だったらすみません」
「だから、俺、冗談とかあんま言わないよ」
「そうでしたね。本当にすみません」
「すみませんじゃなくて?」
「ありがとうございます」
「よし!」
「じゃあ、あとで旅行計画書つくろう。今何してる……って明日も仕事か。じゃあ、仕事終わってからご飯行こう」
「わかりました」