第二十二話
俺はとある後輩のことが気になっている。学生時代に知り合った後輩。少し感情が読みにくくて、でもふとした瞬間にみせる笑顔が可愛くて。気づけば目で追うようになっていた。俺とは学校の非常階段で偶然出会っただけの関係だったが、今はお互い気の許せる友人のような関係になった。と俺は思っている。あいつはどう思っているのか、聞いたことがないからわからないし、聞く勇気が俺にはなかった。
「あれは……伊藤、と会社のやつか?」
後輩の会社の先輩と歩いている姿を一度見かけたことがあった。俺も会社の帰りで、向こうもそんな感じだった。飲み屋でも行っていたのか、すこし男のほうがフラフラしている気がした。後輩に声をかけようと思ったが、二人の姿をみて声をかけそこねてしまった。なんだか仲の良い恋人のようにみえたからだ。実際は仕事の先輩と後輩だと後から聞いたが、それは後輩が思っているだけで、先輩とやらはそうではないかもしれない。下心がない男なんてこの世にいるのだろうか。
「なあ、お前はどうおもう?」
俺は会社の女子に後輩とその会社の先輩とやらの関係について聞いてみた。
「私に聞かれても……でも、普通は好きでもない子と飲みに行ったりしないと思いますけど。会社の付き合いっていっても、今のご時世いかない子のほうが多いし」
彼女はズバズバと意見を言ってくる。
「そうだよなぁ」
「ていうか、先輩も諦め悪すぎじゃないですか?」
「そうだよなぁ」
「ここにもいい女がいると思うんですけどね」
「そうだよな……ん?今なんて言った?」
「いえ、なんでもありません」
彼女と隣で酒を飲みながら、俺は後輩の伊藤について頭を悩ませていた。なぜ、伊藤に執着しているのか自分でもわからなかった。学生時代に告白でもしておけばよかったのだろうか。そもそも伊藤は俺に興味があったのかもわからないのに、今更どうしようもない。ただ、大人になって、家も近くて、心強い存在になっていたのは確かだった。それが、どこぞのわからぬ輩にとられたくないという子供っぽい考えが頭から離れなかった。俺はおとなになってもガキのままだ。
「はぁ、お前みたいに何でも話せればいいのにな」
「はいはい、そうですね。そろそろ水にしておきましょうね」
俺は伊藤の隣にいる男の横顔を思い出し、無性に苛立ちを覚えた。明らかに伊藤に好意がある顔をしていた。
「伊藤……」
「伊藤さん、羨ましいです。先輩にこんなに思われて……」
「ん?なにかいったか?」
「そろそろ帰りますよっていったんです!」