第96話:直接対決・2
「それでは準々決勝を始めます!」
ベスト4をかけた8卓の各校。ここから準決勝の8校に進めるのはトータルの1位・2位のみ。
ここまで立川南麻雀部はまず、今日子が連続トップと幸先のいいスタートを切る。しかし次鋒の紗枝がまさかの3位・最下位。
「す、すみません………」
泣きそうな顔をして控室に戻ってきた紗枝。
(中野は別に何かをミスしたって訳じゃねぇ………。半荘2回戦で交代ってこのルールは明らかに初心者向きじゃない……)
「大丈夫だよ紗枝ちゃん! たまにはこんな事もあるっって!!」
元々自分が出ないせいで、紗枝は団体戦の次鋒になったのだ。綾乃は必死に紗枝を慰める。
「その通りだよ紗枝ちゃん。あとは先輩に任せなって!!」
しかし威勢良く控室を出ていった由香も2位・3位。副将の小百合もトップの後は3位。何とも微妙なポイントとなった。モニターを見ていた和弥は立ちあがる。
「りゅ、竜ヶ崎くん………ごめんなさい………」
「別に俺に謝ってどうする。一回はトップ取っただろ。俺が連続でトップになりゃいい話だろうが」
麻雀とは不思議なもので、負けが込んでしまって、それを取り返そうとすればするほど、ますます泥沼に嵌ってしまうものである。
負けが込んでいくとそこから熱くなって変に頭に血が上り、普段の打ち筋はどんどん狂っていくものだからだ。
小百合が和弥に尊敬の念さえ抱いている理由の一つには、どんな時も最善手を出来るあのマシーンのような冷酷さである。自分も冷静さでは誰にも負けない自信はあったが、和弥と打ってからは『上には上がいる』ことを常々思い知らされた。
俯いたままの小百合と敢えて視線を交わさず、和弥は出ていく。
和弥が卓に近づくと、会場は異様な空気に包まれていた。いよいよ陵南渕高校大将・発岡恵の登場だからである。
「やあ。会えて嬉しいわ」
「………俺は別に。どうせ個人戦でももう一度は会うだろ」
「相変わらず冷たいわねー」
赤いフレームの眼鏡の位置を直しながら、和弥を見つめる恵。
席決めの結果、恵は和弥の下家に座る事になった。起家は和弥である。
東1局。ドラは三筒。
「ポン」
和弥の上家、恵にとっての下家からのポン。
(まずはサクッと俺の親を流そうってハラか)
6巡目。
(問題は筒子のカンチャンだな……。六索を切って三色一向聴を維持するか、それともタンヤオに移行するか…)
恵の河を確認する和弥。
(発岡恵の手は別に染めてもいない。手なりで一向聴か聴牌…。中張牌は危険だ。それに早和了り競争に付き合うのは、俺の麻雀じゃない)
和弥は打・一筒。
(ここはメンタンピン狙いだ!)
「チー」
しかし今度は恵は、和弥の一筒をチーである。
(タンヤオじゃなかったか………。これで役牌バックか暗刻、三色、一通…何でもありだ)
チラリと和弥を見る恵。
(そうよ、迷いなさい。あなたの強さの根幹。それは一瞬の視線や動きも見逃さない洞察力と、コンピューターのような判断力。でも不意を突かれたら慌てるのが人間。下家にいる特権は利用させてもらうわ)
9巡目。
(よし……。絶好の四筒が入ったぜ)
カン四筒をツモり、一筒の対子落としにいく和弥。だが………。
「ロン」
パタリと手牌を倒す恵。
「東・ドラ1の2,600」
今大会、和弥の初めての放銃である。
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