第95話:直接対決・1
今日も小百合は和弥のNinja400の後部座席に座り、二人乗りで会場に到着する。
(クラスの女子が知ったら、どう思うかしら………)
すっかり自分専用になったキャップ型ヘルメットを和弥に手渡し、珍しく俗っぽい事を考えた小百合である。
会場の廊下はかなり静まり返っていた。参加校もかなり減ったし、当然といえばそうではあるが。
「いよいよか」
「………」
いつもの通り平然としている和弥に対し、緊張してるのが丸わかりな小百合である。
「そう緊張すんなよ委員長。気楽に行こうぜ」
何かを言いかけた小百合だったが、結局大人しく和弥の後ろを歩いていく。
「うっす」
立川南の控室。著しく殺気だっている。普段はうるさいくらの由香と今日子までが押し黙っている姿に、和弥も少々面食らっていた。
───正直、ここに来る前から。和弥はともかく、由香、今日子、そして綾乃とは一年以上の付き合いがある小百合は、そんな気はしていたのだが。
やがて綾乃が立ちあがる。
「竜ヶ崎くん。改めてありがとうね。ベスト8に来れたのも、全てキミのおかげだよ」
「よせやい、先輩。そういうのは優勝してシャーレを掲げてからにしようぜ。だろ、先生?」
いつも通り、ゆっくり椅子に座る和弥。そして対面に座っている龍子に視線を移した。
「ありがとう竜ヶ崎。私の言いたい事を全部言ってくれて」
『抽選会を行います。各校の代表は大会本部前に集合して下さい』
大会本部からのアナウンスが、控室にも鳴り響いた。
「じゃあ行ってくるっ!」
元気よく控室を飛び出していく綾乃。
───15分後。綾乃は少々うなだれて戻って来た。
「どうした綾乃?」
心配そうに尋ねる龍子。
「最悪だよ………」
対戦表を差し出す綾乃。そこに記されていた4校の内、『神奈川東地区代表・陵南渕高校』の名前があった。
「え、ええ…!?」
「こんなに早く対戦なんて………」
落胆する由香と今日子。声を無くする紗枝。
瞬時にどんよりとする控室内。しかし、そんな空気を吹き飛ばすものがいた。
「競技ルールからまた生ぬるいルールに戻るのか。腕が錆びついちまうな」
「………竜ヶ崎くん」
勿論和弥はハッタリなどかますタイプではない。それは小百合も良く知っている。
「どっちにしろベスト8に上がる奴なんてそれなりに強ぇんだろ? じゃあここでサヨナラしてもらおうぜ」
───不意に小百合の中でも何かが弾けた。ここ最近の自分の心情的な停滞、その根源になっていたある変化。
それは、勝ちに対する執着が薄くなっていたことだ。あれだけ自分が嫌っていた賭け麻雀をメインにし、マインドスポーツとしての麻雀を完全否定。そんな和弥に完膚なきまでに叩きのめされて以降、勝利に拘り麻雀に挑んだことがなかった気がする。
U-16総合チャンピオンのプライドは粉々に砕かれ、『竜ヶ崎くんが凄すぎる』と常にどこか諦め半分のような気持ちが混在していたし、『西浦家の今はあるのは彼のお父さんのおかげ』と言い訳にしたような思いもあった。
さらに和弥に対する想いが恋愛感情だと自覚したのも、さらに拍車をかけていた。
しかし。麻雀には引き分けはない。勝つか負けるかしかない。中途半端な気持ちじゃ、優勝なんて無理だろう。には勝てない。
小百合はすうっと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。それから、控室の全員に向かって言う。
「勝ちましょう! 竜ヶ崎くんの言う通り。優勝するまでにはいつかは当たるんです。それが今ってだけですっ!!」
全員、小百合の言葉に頷いた。
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