第91話:忍耐
───ベスト16の5回戦目。ここで一度、和弥は状況を整理する。トータルポイントの差は25。さすがに1回戦目にハネ満を和了ったくらいでは、大差をつけられない。もっとも和弥にも「完全競技ルールだから」と言い訳をするつもりはない。
(つまり、だ。俺が2位以内に入らなくては勝利はないということだ)
もっとも勝負の前から2着でいい、と思っているとうっかり最下位に転落するのが麻雀である。
(それにしても、まさかここまで追いつかれるとは思ってなかったぜ。流石は全国だ)
いよいよ5回戦目が始める前に、控室で龍子が煙草を出し火を点けようとする。
「先生。ここは未成年者がいるんです。煙草は控えて下さい」
文字通り突き刺すような視線で赤入りルールのベスト8進出を決めた前回覇者、小百合が龍子に釘を刺した。
「やれやれ。誰かさん達のバイクの2人乗りは、見逃してやったのにな」
皮肉っぽい笑いを小百合に向けながら、渋々煙草を仕舞う龍子。
「!?」
瞬時に表情が変わる小百合。そうだった。和弥とタンデムしているのを、龍子と綾乃にしっかり見られていたのだ。
「え~? ズルいじゃんさゆりん。あたしも和弥くんに今度頼んで乗せてもらおっと」
「私も。よし、今度のサシウマの条件はそれにしよっと!!」
由香に続き、綾乃も悪ノリして小百合をからかう。
「な、な、何を言ってるの南野さん。それに部長も!?
私は竜ヶ崎くんにおかしな感情は一切持っていません。余計な先入観を持たないで下さいっ!?」
小百合はそこで言葉を切り、プイっと横を向いてしまった。しかしその顔は風呂上りのように真っ赤なのが、誰の目にも分かった。
「ほらほら。あの男の対局が始まるわよ」
未だ和弥に対し意地を張っている今日子が注意するなか、いよいよベスト8進出最後の2名を決める5回戦目が開始された。
◇◇◇◇◇
東1局。ドラは一索。
配牌を開けた瞬間、和弥は『おっ!?』とは思った。やろうと思えばノー理牌でも打てる和弥だが、「牌譜をとるのと不正防止のため、理牌は極力するように」との規約があるので、渋々理牌していく。本当は麗美や恵も完全競技ルールに参加すると聞いて、個人戦はノー理牌で挑むつもりだったのだ。
理牌をし終えて待っていたのは、気持ちを昂らせてくれる歓喜と期待であった。
七対子の一向聴である。しかもドラの一索は最初から対子だ。完全競技ルールでもダブルリーチは認められているので、第一ツモで引ければ文句無しのダブルリーチだ。
しかし和弥の第一ツモは九萬。
(ダブリーならず、か………)
しかし、和弥は一切悲観せず、九萬をツモ切りしていく。
(まあ、現実はこんなものだよな)
一向聴なんだ、と再度自分に言い聞かせ、1巡後に和弥は牌山に手を伸ばした。
そのとことん冷めてるようにすら見える和弥とは対照的に、一喜一憂しているのは立川南麻雀部控室である。
「お、惜しいっ!」
「和弥クン、凄いね!!」
「別に、配牌のおかげでしょ。あの男が凄い訳でもなんでもないでしょ」
騒ぐ紗枝と由香。苛立ちを隠せない今日子。画面に食い入ってる小百合と綾乃。現実の厳しさを改めて実感した顧問の龍子。
(本当に表情一つ変えないんだから大したもんだ。そういうところも新一さんそっくりだな)
8巡目。長い一向聴から、ついに和弥の七対子は聴牌する。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!
ぜひよろしくお願いします。