第86話:ベスト8
親っ被りをくらった美里は、そのまま2位転落。
「おい。何してんだ。さっさとツモれよ。逆転くらって意識が飛びそうになってるのか?」
その息子である和弥の一声に、昔を思い出していた美里はハッと意識が戻る。
(………まだよ。2,600直撃か800・1,600ツモで逆転出来る)
上家の親で始まった南4局。しかし南2局までの和弥とは対照的に、今度は麗美の手は重い。ドラが五筒で、しかも赤が美里の手にあるが、どうしてもその周辺をツモれない。
「ポン」
和弥は上家から出た發を鳴いた。
(これはやられたな………)
卓に晒された發を見て、瞬時に美里は敗北を悟る。
2巡後───
「ツモ。終了だ」
麗美の予想通り、和弥が發のみをツモ和了りして1回戦目は終了した。
「では、2回戦目の前に10分休憩です」
係員が休憩を告げる。和弥はコーナーに手を伸ばし、ペットボトルに入った水をカップを手にとる。
(いや、強いね本当に。大会の場であんなフリテンリーチとか、並みの度胸してないよ……)
美里は立ち上がると、フーっ、大きく深呼吸し和弥の顔を見つめた。
「………なんだよ。俺の顔に何かついてるのか?」
「いや、別に。強いな、って思っただけだよ」
自分としても出来る限り努力はしてきたつもりだ。それをあっさり否定された気分になるが、完全な力負けので負け惜しみを言う気力にすらなれない。
「あンたの言う大海とやらがどんなもんか、2回戦目はちゃんと見れるのを期待するぜ。今のじゃプールを泳いだ気分にもなれなかったしな」
自分が和弥に言った嫌味を返されても、美里には全く怒る気にもなれなかった。そして休憩時間の10分が終わる。
「……では。大将戦2回戦目を始めます!」
2回戦目。また今度も和弥の圧勝に終わった。これで立川南はベスト8進出決定。美里の銘君高校は3位に終わり、ベスト16敗退が決まった。
◇◇◇◇◇
「んで。どうだった美里ちゃん。ウチのエースの感想は?」
「いやぁ、お手上げ」
銘君高校の控室。美里にとって高校は違うとはいえお互いをライバルと認め合う、白河綾乃が訪ねてきてた。
「綾乃の言う通りだったわ。新一さんの息子ってだけじゃなかったよ。多分綾乃以来かも知れない。心から『強い』って思ったのは………」
「だから言ったでしょ。多分私もあの子とサシウマして負け越したし………」
ペットボトル入りのウーロン茶を一口飲むと、美里は思わずため息を漏らす。
「自分は太平洋並みの大海を泳いでたと思ったのに。井の中の蛙は私の方だったわ」
「私達は、大海を泳いでるよ」
深呼吸をした綾乃は、無理に明るく振舞ってはいるが内心酷く落ち込んでいるのが分かるライバルに対して、キッパリと言った。
「───彼が大空を飛んでいる猛禽類、ってだけ」
「本当だよね。半荘2回戦のみだったけど、雀卓を真上から見ているような視野の広さは、新一さんを思い出したよ。見かけと態度はイケイケでも、打ち始めると恐ろしいくらい冷静だし………でも!」
いきなり言葉を強める美里に、若干驚く綾乃。
「私も今回個人戦は、完全競技ルールにエントリーしてるから! 次は彼にリベンジするよ!!」
キャンディーを食べながら握りこぶしを作る美里に、綾乃も思わず苦笑いを浮かべるのだった。
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