第81話:しぶとさ
結局今日子は粘るものの、初戦も2回戦目も連続2位だった。
「ここも安手競争かよ。赤入り麻雀じゃ別に間違いじゃないが。気を付けろよ中野?」
「はい、行ってきます!」
紗枝は元気に飛び出していく。
和弥としてはリラックスをほぐした程度の声かけだったが、紗枝には随分勇気づけられたようだ。
(まあその分ポイントの上下は少ないだろうがな)
しかし………。
「ツモ。500・1,000」
次鋒戦の2回戦。またしても久我崎と共に東京東地区代表となった、銘君高校でトップで終了である。和弥は何も言わずにモニターから目を逸らした。
続く由香も2位、副将の小百合も2位。
和弥も2位以上をキープならベスト8進出だが、和弥に負ける気はさらさらない。
大将戦1回戦、東1局スタート。
和弥は西家である。
またも銘君高校の和了りだが、顔色一つ変えず和弥は点棒を渡す。
(ふーん………。安手競争には付き合わないってワケか。なるほど。態度や見かけだけだけじゃなく、そこそこ肝は据わってるみたいね)
東2局。いよいよ銘君高校大将・鳳美里が親である。
ドラは八索。
(それにしてもいざ打ち始めたら、本当に淡々と機械みたいに冷酷に打つねこの坊や。聞いてた通りだわ………)
美里は全くペースを乱さない和弥に、少々感動に似た驚嘆を覚えた。
8巡目。美里の手は索子の両カンが両面に変わり、リャンシャンテンとなる。
(完全に仕上がったわねこれは………。もし二萬か六筒が入ったら、345の三色も捨てられる)
下家は7巡目に、四索を手出しで切っている。
(対面の坊やは連続のツモ切り。聴牌近いかな。ドラ表だしカンチャン処理するなら今しかない)
七索を切ったその瞬間である。
「ロン」
「え?」
美里はギクリとした。和弥にテンパイ気配は全くなかったからだ。
「随分甘い牌だな。大海泳いでるって吠える割には、井の中の蛙のダマテンが分からなかったのか」
和弥はゆっくりと手牌を倒した。
「タンヤオ・三色・ドラ1。8,000」
「………東2局の満貫くらいで。何を調子に乗ってるのよ」
しかし点棒を渡しながらも、美里は和弥を過小評価していた事に気づき、同時に美里にも新たなる“スイッチ”が入る。
(やるわね。これは舐めてかかれないかな)
卓上に競り上がってくる牌山を見ながら、美里は一度“落ち着く”事にした。
「あっとっと。すいません」
コーナーにあったミネラルウォーターのペットボトルを、美里が落としてしまったが、ワザとなのは明らかだ。怪訝そうな表情をし、拾い上げて美里に渡す係員。
山に手を伸ばしていた和弥だが、文字通りテンポを崩されてしまった。わざとゆっくり水を飲む美里を見ながら、少々ため息気味に深呼吸をする。
(やってくれるな。つまんねぇ時間稼ぎしやがって。だがこんなもんで俺が崩れると思うなよ)
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