第80話:柳に風
いよいよベスト8をかけて最後の勝負が始まる。まずは先鋒戦の1回戦目。
「よろしく。アナタ、鳳凰荘の十段なんですってね?」
「あ、あたしの事知ってるんだ!」
対面の東東京代表・銘君高校の先鋒に声をかけられ嬉しそうな表情をする今日子だが、次の瞬間に一気に表情が曇った。
「多少は腕に自信があるようだけど。井の中の蛙が大海を知るいい機会じゃない?」
「はぁ~………?」
元々感情が顔に出やすい今日子だ。控室のモニターで観戦していた和弥達も、今日子が明らかに立腹しているのが分かった。
「あたしが井の中の蛙ねぇ。まるで自分が常に大海で泳いでるみたいな言いぐさね」
「そりゃあ、ね。あなたとは経験が違うよ」
一体何が起きているのか和弥達には理解不能だったが、両名とも係員に注意されて着席する。
それにしても先ほどのセリフ。本当にハッタリやブラフではないのか?
(上等だわ………どっちが井の中の蛙か、思い知らせてやる!)
全員挨拶をし終えて着席し、改めて先鋒戦が始まる。
今日子はずっと挑発してきた対面に注目する。内心気が気ではないのは明らかだ。
「仮親はあなたよ。早くサイコロ起動させてくれないかしら?」
今日子を睨みつけてくる対面だが、正直、立川南の控室は和弥以外カチンときていた。
大阪の桐生学園の大将だった竹田レベルの不快さである。
「上等よっ!」
今日子はサイコロボックスのスイッチを押した。
「………冷静さを失って、自滅しなきゃいいがな北条の奴。最低2名は浮いてくれないとどうにもならんぜ」
ずっと余裕だった今日子の表情が、眉間にシワが寄ったのが誰にでも分かる。
桐生学園よりずっとピリピリした状況の中、いよいよ先鋒戦、1回戦目が始まった。
その今日子が起家。ドラは六筒。
(北条さんには白が暗刻………!)
それだけではない。ドラも赤もある贅沢な手。
「最低でも5,800は確定だねこれ」
由香も出来るだけ表情に出さないようにしながらも、流石に全員今日子の先制パンチを確信する。
しかし───
「ポン」
対面は、いきなり下家、今日子から見て上家の第一打の發を鳴いた。
「チー」
4巡目。今度は今日子から見て下家の三萬を鳴く。
「ツモ。500・1,000」
今日子の親は、あっさりと蹴られてしまった。
「お子様の麻雀勉強会に付き合うつもりはないけど。この勝負、ようはプラスで終わればいいんだし」
「言ってくれるじゃない」
キー牌を鳴かせてしまった下家は、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべている。
今日子はチャンス手を潰されて、東2局目が始まった。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!