第78話:麗美の実力
声の主は勿論、龍子だった。
「せ、先生………」
怯えたような小百合の声。
それでも小百合の手前、信号が変わると同時に和弥はNinja400を発進させた。しかし龍子も間髪入れずアストンマーティン・ヴァルキリーのアクセルを吹かす。
「待て竜ヶ崎」
(おいおい……!)
構わずNinja400の運転を続ける和弥に、小百合が心配そうに声を掛ける。
「だ、大丈夫よね竜ヶ崎くん…!?」
「別に見られたって、あれこれ言われる義理はねぇけどなっ!!」
怯える小百合を乗せたまま、和弥のNinja400は会場近くの駐輪場についた。
◇◇◇◇◇
「もうっ! 竜ヶ崎くんっ!」
駅の貸しロッカーにヘルメットを預け、会場に辿り着いた2人を待ち構えていたのは、怒り心頭の綾乃だった。
どうやら和弥が龍子に睨まれる事が気に入らないらしい。
「……なんで怒るんだよ」
(さすが立川南三大美少女だな。怒った顔も可愛いわ)
そんな和弥の気持ちなど、露ほども知らない綾乃は続ける。
「だって龍子先生よ? 生徒指導も兼ねてるのは知ってるでしょ……!」
「待てよおい。バイクが校則違反とか今更な事言うなよ? それ言ったら先輩だって……」
そう言い放った後、綾乃は慌てて言い直した。
「……いやごめんなさい。私の言い方が悪かったわ。先生や私に何の連絡も入れず会場直行した事に怒ってるのよ」
「……それに関しては悪いと思ってるよ。俺だって」
(とはいえ、生徒を雀荘に連れていく先生に、怒られる筋合いでもねぇような……)
そんな和弥の態度に、綾乃は語気を強めて言う。
「分かったならいいわ。じゃあさっさと会場入りしましょ!」
スタスタと会場に入っていく綾乃。
申し訳なさそうな小百合。対照的に全く悪びれた様子のない和弥は、黙って綾乃の後をついていった。
◇◇◇◇◇
「おはよう綾乃、西浦さん。竜ヶ崎くん」
「おはよ、ハナちゃん!」
会場に入ると既に来ていた麗美が、笑顔で和弥達を出迎える。
「おはようさん。そういえば今日は久我崎の試合もあるんだったな」
「そういう事……。ま、見といてよウチの対局を」
相変わらず値踏みするような麗美の視線だった。
その久我崎だが、副将の筒井が連続最下位で劣勢に立たされる。
(口先だけだな、ハダカデバネズミ………)
悔しそうに俯く筒井に、呆れる和弥。これで大将戦の2回戦、どちらもトップを取らねば優勝候補の久我崎はベスト8にもいけず敗退の危機となった。
南4局。ドラは六索で親は麗美。
トップとは11,500点差。5,800直撃か、3,200ツモオールで逆転出来るが……。
控室の立川南の生徒も龍子も、文字通り固唾を飲んで見守っている。和弥以外は。
逃げ切りたいトップは、なり振り構わず無理仕掛けである。
「1,000点でも和了ればいい場面だけど。役牌の後付けか、234の三色のどちらかなのが丸わかりな鳴き方ですねぇ………」
思わず紗枝が呟いた。
7巡目。麗美は三索をツモって聴牌にする。
「三索を引いたね………シャボリーチかな?」
「あたしなら發を落として、345のタンピン三色狙いにいくね」
「気になるのはトップは2副露してから2連続でツモ切りな事。間違いなくもう聴牌だよ」
盛り上がる由香と今日子、綾乃。
「俺なら二索切りだ。シャボで待っても發は出てこない。でも捨てればブチ当たる」
「えっ!?」
声を上げる由香と今日子だが、次の瞬間、モニターではトップの手牌が映し出された。
「な? 發待ちだろ」
そして麗美が選んだ一手も、二索を落としてのシャンテン戻しだった。唖然とする由香、そして今日子。
8巡目。
「あ、ドラを引いたわ………!」
驚く小百合。
「確かにあの形じゃないと、ドラを引いた時にどうしようもなくなるわ。それに萬子が伸びても対応出来る。だから二索切りだったのね」
感心する綾乃だが、相変わらず和弥は涼しい表情である。
「リーチ」
(………………こ、この女ッ!!)
麗美のリーチに手を短くしてしまったトップは、途端に焦り出しているのが分かる。
11巡目。
「やれやれ、やっとツモった。裏ドラ二萬で3,900オール。終了します」
麗美が係員に終了を告げたため、大将戦1回戦目を逆転トップで終了。
「クソッ! 發を雀頭にしてやがった!!」
麗美に逆転されたトップが、怒っているのがモニター越しにも分かった。
しかし勢いのまま、麗美は次もトップ。
久我崎のベスト8入りが決まった。
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