第72話:追走
「………貴方が言うと、負け惜しみに聞こえないのよね………」
自分と同学年とはいえ和弥を下に見ることはない。もう小百合にはU-16覇者のプライドなど、和弥に対して向けても仕方ないという気持ちがあったからだ。
東4局。親は龍子。ドラは六萬。
「ポン」
和弥の白を鳴いたのは、昭三だった。
「第一打から早速鳴きですか」
親である龍子も、昭三の早鳴きには苦笑いを浮かべるばかりである。
「龍子ちゃんと新一の息子の対局だ。リングサイドの特等席で観客決めてるつもりだったが。俺もちょっとは参加させもらうか」
「どうぞご自由に」
まるで関心なさそうな和弥を後目に、今度は小百合から九索を鳴く昭三。打牌は五索である。
(対々和決め打ちか。索子は手の中で上下に分断されてるな?)
さらに和弥が昭三の捨て牌で気になったのは、第3打目の五萬だった。
(3打目にドラ表、ね…)
7巡目。和弥の聴牌。
しかし和弥が選択したのは打・二索。
「ポンッ!」
すかさず和弥の二索をポンする昭三。三副露だ。トイトイ・混一色の気配濃厚である。
しかし龍子には───和弥のシャンテン戻しをしたのも、その意図も分かっていた。
(良く見てるな、本当にこの子………。打五索の時点でホンイツは無いって判断したんだ)
9巡目。一萬をツモった和弥は、残りの三索も切ってそのまま三面待ちのリーチにいく。
(ここでリーチときたか、このガキ………!)
手を短くした状態でリーチをかけられた昭三は、内心大慌てだった。
その昭三が掴んだのは、なんとドラの六萬。
(あ、あのリーチにドラは打てん………ここはワンチャンスで九萬か)
昭三が九萬を抜いて捨てようとした、その時だった。
「理事長さん。中盤に入ってのワンチャンスなんて、アテにしない方がいいぞ?」
「………やってみなけりゃ分からんじゃろ?」
八萬を暗刻でもっているのを見透かされた事にギクリ、としながらも和弥の態度にカチンと来る昭三。
少々強打気味に、九萬を打牌する。
「ロン」
パタリと手牌を倒す和弥。
「メンピン・一通・ドラ1。一発か裏有りならハネ満だったのにな」
「………やるじゃないか竜ヶ崎。234の三色から萬子の一通に切り替えたのか」
もう冷め切ったコーヒーをすすりながら、まじまじと和弥の手を見る龍子。
「チッ…。俺の手の中に八萬が暗刻であるのがよく分かったな、ガキ」
ハネ満に放銃し、昭三は苦々しい表情で8,000点を払う。
「ドラは俺が持ってるし、七萬は3枚も見えてるんだ。にも関わらず八萬は一つも見えてない。誰かが固めて持ってると思うのが普通だろ。それに………」
淡々と点棒入れに8,000点をしまう和弥。
「その3打目の五萬。もっとあとに切るべきだったな」
フン、と鼻で笑う龍子。
(竜ヶ崎め………私が一・四索をガメってるのも分かってたみたいだな)
パタリと手牌を伏せる龍子。勿論、和弥にも龍子の意図は分かった。
(七対子だろ先生? 一・四索もあンたが持ってんだろ)
勝負は南1局に突入する。
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