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第6話:立川南麻雀部との初対決

「おっけおっけ。カフェ・オレのノンシュガーだね。ちょっと待ってて。クッキーもあるよ? 私の手作りなんだ」


 屈託のない綾乃の笑顔だが、どう見ても拒否は許さないといったオーラを醸し出している。和弥は仕方なく、カフェ・オレが入るまでクッキーを(かじ)る事にした。


(白河先輩か。そういえば思い出した。麻雀部の部長だったのか………)


 俗っぽい噂には興味のない和弥も、綾乃が小百合と共に立川南三大美少女の一人と言われているのは知っている。その綾乃からの差し入れを断るなど、全男子生徒に対する宣戦布告である。

 テーブル代わりの机の前には由香と今日子が座っているので、和弥はなるべくソファーの隅に座っていた。綾乃はゲームングチェアに腰掛け、由香と今日子がスマホのアプリを見ながらあれこれ麻雀談義に花を咲かせるのを見て、微笑みながら紅茶を傾けている。

 本来は麻雀を打つためにこの場へ連れてこられたはずだ。これではただの女子トーク会である。ただ一人、小百合だけは紅茶を飲みながら、申し訳無さそうにチラチラと和弥を見ていたが。


「………あの。そろそろ対局を始めませんか、部長?」


 時間にしてほんの15分程度だが、流石に和弥がイライラしてきているのを小百合は感じ取っていた。これ以上待たせるのは賢明ではない、と判断したのだろう。綾乃に対局を(うなが)し始めた。


「白河先輩。カフェ・オレ、美味かったよ。ご馳走さん。でもいいん…西浦の言う通りだ。麻雀打たねぇなら、俺はそろそろ退()けるぜ?」


「あ、ああ…ごめんね。それじゃあそろそろ始めようか」


 慌てた綾乃が立ち上がるとゲーミングチェアを移動させ、和弥はヌルくなりかけたカフェ・オレの、最後の一口を飲みこんだ。


「でも5人だよ? 誰かが抜けないと」


 紅茶はまだ飲みかけなのか、ソーサーごとティーカップを持ち卓に移動する由香が尋ねる。


「じゃあ、私が抜けるよ。竜ヶ崎くんの打ち筋をじっくり見たいし。後ろからサイン送るような真似はしないから安心して」


「そう願いたいもんだな」


 辞退を名乗り出たのは綾乃であった。確かに直接卓を囲むよりも、後ろからの方がより打ち筋を把握できる。是非とも勧誘したいと意気込んでいるのか、綾乃も和弥には興味深々なのを隠そうとしなかった。


「竜ヶ崎くん、ルールを説明するよ。いい?」


 綾乃が机の上のファイルを持ち出して来た。どうやらルールブックらしい。


「ルールは喰いタン、後付けありの、一般的なアリアリルール。持ち点は25,000点持ちの30,000返し。高校選手権ルールには赤ドラありと無しがあるけど、この部では有りにしている。国士無双(コクシムソウ)の暗槓の槍槓(チャンカン)和了(アガ)りはあり。オープンリーチはナシね。三連刻(サンレンコ)四連刻(スーレンコ)もナシ。国士13面待ち、四暗刻(スーアンコ)単騎、大四喜(ダイスーシー)、純正九蓮宝燈(チューレンパオトウ)はダブル役満。人和(レンホー)十三不塔(シーサンプトー)は不採用。

 あと選手権のルールは去年から飛びで終了(ラスト)になったけど、この部でも時間も惜しいので、誰かが飛んだ時点でその半荘(ハンチャン)は終了。同じ理由で南4局(オーラス)の親のトップの和了(アガ)り止めもアリ。いいかな?」


 移動しながら懐から鉄櫛(てつぐし)を取り出し、髪を整えながら和弥は気になった事を聞いた。


「30符4(ハン)は切り上げ満貫? それとも親11,600(ピンピンロク)の子は7,700(チッチ)?」


「この部では切り上げ満貫にしてる。選手権では親11,600の子は7,700だけどね。ああ、分からないことがあればその都度聞いてよ。時間的にも恐らく半荘2回、良くて3回が限度だろうけど。じゃ、ナイスファイトを期待してるよ」


 綾乃が見る関係で、和弥は入り口に近い席に座る事に。そして(トン)を抜いた(ナン)西(シャ)(ペー)での四風(スーフー)牌を使った席決めは、和弥の上家(カミチャ)が小百合、対面(トイメン)が今日子、下家(シモチャ)に由香になり、それぞれ卓の椅子に座る。仮親の和弥がもう一度サイコロボックスのスイッチを押し、結果、起家(チーチャ)がそのまま和弥となる。


「よろしくお願いします」


 かくして、初めて綾乃が不在での対局が始まった。

 東1局、ドラは三筒。


「あ、自慢じゃないけど。あたし、『鳳凰荘(ほうおうそう)』じゃ十段だからね?」


 今日子が和弥を見ながら、自信ありげに(うそぶ)く。完全な自慢だった。


「ホウレン草? なんだか知らねぇが凄いな」


 和弥は興味もなさそうに、淡々と牌山から牌を取っていく。感情の沸点の低い今日子は、すぐにムッとした。長い歴史のあるオンライン麻雀ゲーム『鳳凰荘』で十段まで上り詰めるのは、並大抵な事ではない。特に現役JKだと公言してる今日子を妬む者は多く、ネットのあちこちで「不正をしている」「ネカマだ」との誹謗中傷も後を絶たない。父親に「顔を全部見せるのは駄目」と言われてサングラスをかけた動画配信で、ようやく信じてもらえたほどだった。


「裏雀士の息子ねぇ………」


「何が言いてぇ?」


 いかにも興味あり気に、しかし和弥を値踏みするように見る今日子。その様子に小百合も、そして和弥も何とも言えぬ不快感を覚える。


「でもね。今の麻雀の地位ってさ。表プロの人達が一生懸命に取り組んだ成果だと思ってるの。

 アナタみたいなさ、麻雀を未だ賭け事の道具だと思ってる人間見てると。ムカつくんだよね本気で。第一、何が裏雀士の息子よ、バカバカしい。

 アナタの父親なんて、鳳凰荘じゃいいとこ五段じゃないの?」


「ほー」


 わざとらしくポーズを作ったあと、和弥は答えた。


「奇遇じゃねえか。俺は『勝って嬉しい、負けても悔しいだけで済む麻雀なんて打つ意味はない』と思ってるクチでな。

 あンたみたいなのを見てると。ペケが青い鳥だった時に、まとめてクビになった意識高い系キラキラ社員を見てるよう気分になるぜ」


 平然とやり返す和弥に今日子だけでなく、小百合も少し眉を(ひそ)める。犬猿の仲の小百合と今日子だが『賭け麻雀は嫌い』という考えだけは共通しているのだ。

 一方、今日子とクラスメートの由香、そして後ろの綾乃は明らかに凍り付いている。


「ああ、この対局の内容と結果。まとめて動画配信するつもりだから。よろしくね?」


「………そりゃあ構わねぇがよ。悲惨な内容で配信出来ない、とかにならないといいな」


 もう勝った気でいる今日子に、不敵に笑う和弥だった。

 いても立ってもいられないのか、綾乃は立ち上がり和弥と小百合の手牌を覗き込む。小百合が入部して以来何度も対局してきたが、やはり高校選手権U-16個人総合の覇者というだけあって、その安定感は折り紙付きだった。基本に忠実であり、極端な破壊力こそないものの、非常にバランスがいい。

 その小百合が強いと絶賛しているとなれば、期待しない訳にはいかない。

月・水・金曜日に更新していきます。

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