第63話:ウサギとカメ
「リーチやっ!」
7巡目。
和弥との対局で竹田が、初めてのリーチをかける。
(最初から萬子の切り出し………。捨て牌が明らかに索子に寄っている。こりゃあ流石に、最低でも4,000オールは覚悟しておいた方がいいかもな)
10巡目。
「ツモ。裏がひとっつで2,000オールやっ!」
「………その手でリーチにいったのか。我慢してりゃメンホンツモれてただろそれ」
2巡我慢してればメンホンで親ッパネである。捨て牌を見ながら2,000点を支払う和弥だが、竹田に悪びれた様子はどこにもない。
「ワイは怖がりなビビり症でな。いっつも『デカい手には振り込みとうない』思うて打っとるんや」
シシシ、とまた下品な笑いを浮かべる竹田。
どうやら和弥の手は、竹田には読めているようである。
和弥はパタリと手牌を伏せた。
「それより兄ちゃん。ワイの事よか自分らの事を心配した方がええんやないのか? 最下位やったら敗退やで?」
「東2局の2,000オールでいい気になるなよ」
「おうおう。吠えるのぉ」
牌を収納口に落としながら、竹田はすっかり冷めた緑茶を一口すする。
「童話の『兎と亀』に例えたら、ワイは兎や。でも途中で休んで亀に抜かれる事はないで?
そのままぶっちぎりゴールする兎や」
文字通りの“ドヤ顔”というべきか。最早勝った気でいる竹田の表情に、小百合・由香・綾乃・紗枝・今日子の5人もかなりの嫌悪感を覚えた。
和弥は一発で逆転出来るハードパンチも打てる。それは対戦した後ろの4人が良く分かっている事だ。
「君達、いい加減にしたまえ。競技中の私語が多いと失格にするよ?」
大会実行の係員に注意され、竹田は「すんまへん」と言った後流石に黙り込む。
とはいえアウトステップで逃げながらジャブを連打してくるような、竹田の鳴き鳴き麻雀と表情。全員がまるで自分と対局しているかのような、イライラと焦燥感を募らせる。
(さっきから満貫やハネ満に行ける手を、鳴いて安い手に落としたり………。ひょっとしてこの人、わざとやっているの?)
これは小百合ではなく、由香・綾乃・紗枝・今日子。そして龍子の5人も感じ取っていた事だった。
(大丈夫よね和弥クン………?)
腕に多少の覚えはある由香も、流石に不安になる。
東2局目の一本場。ドラは七筒。
チラチラと竹田の捨て牌を確認する上家と下家。通しなどはしてないが、スキあらば竹田に牌を喰わせてでも和弥の和了を阻止しようとしているのが見え見えだ。
(マークされるぐらいの有名人って事か俺も)
8巡目。
「チーや」
竹田が四萬を鳴こうとした、その時である。
「悪いな、ロンが優先だ」
「え?」
驚く下家を後目に、パタリと手牌を倒す和弥。
「平和・ドラ・赤。3,900の一本場で4,200」
「は! その手をリーチかけんのかいっ!?」
手牌を伏せ収納口に牌を落としていく竹田が、今日初めて動揺した表情を浮かべる。
「別に。あンたがさっきからやってる事だろ。鳴くか鳴かないか、その違いだけだ」
冷酷なまでに態度を変えない和弥に、竹田の顔から笑みが完全に消えた───
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