第61話:1回戦目
「へ~。面白そうじゃん」
いよいよ立川南の団体戦一回戦。対局選手以外は各校の控室に戻ろうとした瞬間、聞こえた女性の声。和弥には確かに記憶にある声だった。
「………あンたかよ。一足遅かったな。もう対局は始まるぜ」
久我崎高校の部長───花澤麗美その人である。
「今日は一人かよ………ん?」
「や! 久しぶり少年。また私に会えて嬉しい?」
麗美の後からひょっこりと顔を出した、ボブカットに眼鏡をかけた女性を見て和弥も流石に渋面になる。もう一人の女性は陵南渕高校の部長・発岡恵だったからだ。
「なんだ? 陵南渕の部長さんもか。まさか今更立川南の偵察なんかに来たワケでもあるまい?」
「違うって。私、花澤さんとは時々しか会わないけど、花澤さんはそんな姑息な真似するタイプじゃないよ。それと恵でいいわよ」
確かに、前回の戦いでも自分に対し、何も臆したような態度を全く見せなかったである。ある意味彼女は同じカテゴリーの『狩る側』の人間なのは間違い無い。
「………但し。私は慎重なタイプだから。個人戦でもライバルになりそうな人の打ち筋は、じっくり見させてもらうわ」
そういうと恵は綾乃と龍子に挨拶だけし、さっさと控室に消えてしまった。
「ふん。勝手にしろよ」
はぁ~、と大きなため息をつく和弥。
「なんだかゴタゴタしてるようだけど。あたし、そんな話に興味ないんで。そろそろ行くわよ?」
先鋒の今日子は、すかさず卓に向かう。
「ま、北条の言う通りだな。見るなり見ないなり好きにしてくれ」
「そういう事だよハナちゃん。私もここからは戦闘モードに入るね?」
親友の挑発に、麗美もニヤリと笑った。
いよいよ立川南の2度目の団体戦。先鋒・今日子、次鋒・紗枝、中堅・由香は手堅くプラスをキープしていく。
そしてそして副将・小百合がトップ。
いよいよ大将戦。1位と2位の高校が2回戦進出なので、和弥は2位を守ればよい。しかし………
(2位でいい、なんて言ってると痛い目見るのが麻雀だ)
東1局。ドラは發。和弥はラス親である。
6巡目。
(よし、いい引きだ)
和弥は躊躇なく發を切り飛ばす。まだ生牌であるとはいえ、役牌のドラをギリギリまで抱えているつもりはない。
「うわ、ドラ切っちゃうんだ」
控室のモニターで見ていた今日子が絶句した。
「いえ、要らないから切ったのでしょう」
「だね。いくらドラの役牌でも雀頭もないのに手が遅いのにポンするほど、相手も馬鹿じゃないだろうし」
小百合と綾乃の指摘通り、發の対子を抱えている男子は、瞬時に眉間にシワを寄せる。
9巡目。
「リーチ」
聴牌した和弥は早速リーチ攻めを開始した。次の巡。
「ツモ」
メンタンピン・一発・ツモ。安目だが赤があるのでどっちにしろハネ満である。
「3,000・6,000」
(ち…。思ったよりお行儀のいい麻雀だな)
(人を見かけで判断するなよ)
3,000点を払う男の顔を見て、即座にこちらを舐めてかかってるをの悟った和弥だった。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!
ぜひよろしくお願いします。