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第5話:部室へ

 麻雀高校選手権では『団体戦に参加するにあたって5人必要である』という規約を、立川南高校は現時点で満たしていない。何せ部員が2年の小百合・由香・今日子、そして唯一の3年である部長の綾乃と、学校の定める規定の4人ギリギリなのだ。綾乃以外の3年は受験勉強を理由に、ゴールデンウィーク明けに全員辞めてしまった。本当の理由は綾乃や小百合に全く歯が立たない事に、絶望を覚えたからだったが。

 そもそも立川南自体は普通科のみだが、コースには看護医療進学コースや音楽コースもある事から、実は女子生徒の方が割合が多い。マインドスポーツとしても徐々に市民権を得てきた競技麻雀だが、女子には抵抗があるのか今年の新入学生にはまだ入部希望者がいないのだった。

 が、立川南は私立校だ。いくら進学校とはいえ『進学以外にも魅力ある学校生活』をアピール出来ない事は、生徒募集の上での死活問題である。

 綾乃の両親の圧力や、「部活で使うものは全て自分達で用意する」のを条件に、認可が下りた経緯があった。


「あー。それについては。小百合ちゃんから耳寄りな情報あるそうよ」


 大袈裟な身振りで、しかし「その質問を待っていた」と言わんばかりの綾乃の表情。

 コホン、と軽く咳払いをした小百合は口を開く。


「明日、かなり腕のいい、強い人を連れてきます」


「誰なんそれ? この学校であたしら以外に、そんな麻雀上手い人なんていたっけ?」


 由香と今日子が、訝し気な視線を小百合に向けた。


「私と同じクラスの、竜ヶ崎和弥くんです」


「………………あーっ! 知ってる知ってる! あの竜ヶ崎新一さんの息子だよね確か?」


 手をポン、と叩き大袈裟に表情を作る由香。


「顔は結構イケてるよね、竜ヶ崎クン。なんであんな20世紀のヤンキーみたいな髪型してるかは謎だけど………」


 由香とは正反対に、今日子は露骨に不愉快な表情を浮かべる。


「伝説の裏雀士の息子だっけ? ウサンくさー………」


 しかし、綾乃からは先ほどまでの茶目っ気のある態度は、完全に消えていた。


「………本当に入ってくれるの? その子?」


「はい。明日必ず連れてきます」


◇◇◇◇◇


 金曜の放課後。ホームルームが終わると同時に、小百合は和弥の元に近づいてくる。

 本来なら今日はキックボクシングのジムにいき、ひと眠りしてから夜は高レートの場で打つつもりだったのだが。


「さあ、行きましょう竜ヶ崎くん」


 和弥はハァ、とタメ息をつくと、頬をポリポリとかく。


「やれやれ。どうしても今日じゃないと駄目か?」


 小百合と和弥の会話に、周囲の女子達の空気が一瞬で凍ったのが分かった。

 男子はともかく、女子からの人気はある和弥は、これまで何度もカラオケ等に誘われた事があったが、一度も応じた事はない。

 和弥自身にプライベートをあれこれほじくられたくないという気持ちがあったからだが、このやり取りを見て女子達が当然面白いと感じる筈がなかった。その美貌や優等生ぶりに、只でさえ普段から女子の嫉妬をかっている小百合なのだ。

 空気の読めないタイプではない和弥は、これ以上小百合とこの場にいるのは賢明ではないと判断し、一緒に教室を出る事にする。


「あっ、きたきた。ねぇカレシ、竜ヶ崎クンだよね? あたし、B組の南野由香」


 和弥がドアを開けて廊下に出た瞬間、声を掛けてきた者がいた。片目が隠した前髪に紫のインナーカラーの金髪の少女と、セーラー服がはち切れんばかりの爆乳のツインテールの少女。同じ2年である南野由香と、北条今日子である。


「………そうだが」


 笑顔の由香とは対照的に、ずっと仏頂面な表情で和弥を睨みつけていた今日子だが、(おもむろ)に口を開いた。


「アンタのお父さん、麻雀強かったらしいじゃん?」


「…(ワリ)ィが。口も利いた事ねぇ人間からの、そういう質問には答えられないな」


 どうにも、昨日から和弥に対しあまり歓迎的ではないのが態度からも丸わかりな今日子だが、小百合と由香はお構い無しだ。


「とにかく、部室に行きましょう」


「そそ、さゆりんの言う通り! ちょっと付き合ってくれるだけでイイから」


 逆ナンも同然の状況なのだが、和弥はひどく困惑していた。由香に先導され、渋々と後ろをついていく。


◇◇◇◇◇


「部長! 只今戻りました!」


 先頭を歩いていた由香がガラリと扉を開けたのは校舎奥の、空き部屋の物置と思っていた教室であった。他の教室と同じように扉のガラスも当然曇りガラスのため、廊下から中の様子は見えない。


「おー! 小百合ちゃんも、それに由香ちゃんも今日子ちゃんもお疲れ様!」


 奥からは張りのある、それでいて凛とした声が聞こえて来た。3人を迎えに出てきたのは、言うまでもなく麻雀部部長・白河綾乃その人である。


「昨日話した、彼を連れてきました。同じクラスの竜ヶ崎和弥くんです」


 小百合はまだ入り口付近で立っている彼を紹介した。

 空き部屋の物置と思っていたが、中は非常に清潔だ。机を4台長方形型に並べクロスをかけてテーブル代わりにし、上にはケトルと高級そうなカップや皿なども置かれている。

 先ほどまで綾乃が座っていたソファーもクロスがかけられ、清潔感を(かも)し出していた。


「やぁやぁ。竜ヶ崎くんだね! 話は聞いてるよ。私はこの麻雀部の部長の白河綾乃。良く来てくれたね。ありがとう!」


 小百合のようなクールさ、というより冷酷ささえ感じる見た目とは裏腹の、何とも軽い調子の綾乃の挨拶である。


「どうも。いいんちょ…西浦と同じクラスの、竜ヶ崎です」


 和弥は表情を崩さぬまま、返事だけを返した。


「ほらほら、竜ヶ崎くんも座って。紅茶飲む? コーヒーや日本茶もあるわよ」


 綾乃に(うなが)され、小百合が手を()く。和弥は渋々といった様子で、テーブル代わりの机の前の椅子ではなく、ソファーの方に腰を下ろした。


「カフェ・オレ。砂糖抜きで」

月・水・金曜日に更新していきます。

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