第56話:実力者
(落ち着け。顔を上げて仕切り直しだ。この程度の読みなら先輩だって、久我崎の部長だって持っていた。なんなら委員長だって読めるレベルだ)
自分に言い聞かせるように、和弥は収納口に牌を落とす。
親がノーテンのため流し、東2局一本場となった。ドラは四萬。そして親は問題の恵である。
(軽く和了ってくるのか、それともドンと構えてデカい手を作るのか………。見ものだな)
理牌し終えた和弥が恵をチラリと見るが、恵もまた同じように和弥を、まるで値踏みするかのように見ていた。
(聞いた通り怖い目してるわね………。でも今日は私も、最初からフルスロットルのつもりよ?)
その恵だが10巡目。
高目を引いて全帯公・イーペーコー・白が完成する。
(よしよし、高目を引けた。これで親マン確定。対面の少年は典型的なタンピン系の捨て牌だし、ダマで充分だね)
しかし。ほんの少しだけあった恵の“間”を、和弥は見逃さなかった。
(張りやがったな……。リーチしないって事はダマでも十分高い手。そしてあまりいい待ちじゃないって事か)
恵は典型的なチャンタ系の捨て牌である。しかし同巡。和弥もテンパイした。
(さてさて。竜ヶ崎くんはどうするのかな? ハナちゃんの方は索子を固めているっぽいし。出アガリは期待できないし、三・六索はあと4枚残っているかどうか………)
むしろ期待でワクワクする綾乃だったが、和弥はどこ吹く風とばかり平然と点棒入れを開け、1,000点棒を出す。
「リーチ」
和弥のリーチに、場が静まりかえる。ただ、恵だけはそのリーチをクスクスと笑っていた。
「困るわねー。こっちも勝負手なんだけどなー」
そうして恵がツモって来たのは、先ほど捨てた三索だった。
「アチャー。モロ一発でアタリ牌掴まされちゃった」
即座に一索を切り、今度は二索のカンチャン待ちに受け直す恵。
(チ………。引き込みやがったか)
「ま、これはお互い痛み分けってとこで。二本場かな」
両脇の綾乃と麗美は親の恵と和弥のリーチを恐れたのか、完全にベタオリの状態である。
13巡目───
「こっちにもいたよ………。多分最後の一枚がな」
和弥は静かにツモ牌を置いた。
「メンタンピン・ツモ・ドラ・赤。裏はないが一本場で3,100・6,100」
「やるじゃん。痛い親っかぶりだ。でもこうでないとね」
笑顔で6,100点を和弥に払う恵には、悔しいという感情は見えない。
しかも作り笑いとも思えない顔である。
「随分と余裕だな陵南渕さん」
「いやいやいや。恵でいいわよ」
点棒をしまい込む和弥に対し、綾乃のように大げさなゼスチャーで懇願する恵だが、和弥はやはりシカトである。
(見てな………。その余裕をぶっ壊してやる)
だが、恵も内心では燃え上がっていた。
(面白いわね。白河さんや花澤さんの言う通りだわ。本当に久しぶりに真剣な勝負が出来そう………)
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