第55話:新たなる強豪
「ルールは紅帝楼のアリアリ、赤3入りでいいのか?」
「それで構わないわ。違うのは大明槓の責任払い無しと、30符4翻は切り上げ満貫ではなく子7,700の親11,600なこと。いい?」
和弥は少々考える。ルール的には問題ない。
「言っておくが。ノーレートなら他を当たってくれ」
女性はかすかに微笑むと、財布を取り出し2枚の一万円札を見せる。
「大丈夫。一応見せ金が必要っていうから、ほら」
「………了解。んじゃはじめっか」
東1局。親は下家に座っている綾乃が起家でスタート。
よって和弥はラス親である。
ドラ表示牌をめくるとニ筒。ようするに三筒がドラだ。
「ねぇ。竜ヶ崎くんって言ったわね」
「そうだが? 両方の方々から聞いてねぇのかよ」
「あなたにとって麻雀って何?」
山から牌を取りながら、恵が和弥に尋ねた。
「───遊びだよ。でも生きる手段でもあるな」
父・新一が、唯一心を囚われたのは麻雀だった。
『麻雀以上に打ち込んだものはなかったな』
新一が良く口にしていた言葉だった。
その新一が元々麻雀を始めたきっかけも、和弥から見ての祖父で新一曰く「史上最低のクソ親父」の影響だという。
新一の父は大のギャンブル好きで、その中でも特に麻雀にハマっていた。
朱に交われば赤くなる。父親を嫌悪しながら自身も麻雀を憶え始め、僅かばかりの金を握りしめて雀荘へ入り浸る毎日。
さらに進学した高校で「オタクっぽいガリ勉野郎」と思っていた本間秀夫が麻雀好きと分かり、すっかり意気投合。
そんな2人に囲まれて暮らしてきたのだ。麻雀を好きにならない訳はなかった。
こんなに熱くなれて、中毒性があるゲームは他にない。
新一同様に、和弥も他のゲームには全く興味を持たなかった。
さらにはもう、ネット麻雀すら今はやっていない。
しかし、同時に。和弥にとっての麻雀は、現在は生きる為の手段である。
自分が喧嘩と麻雀しか取り柄のないロクデナシなのは理解できている。ランディー・ローズやハリー・スタイルズに憧れて始めたギターもとっくに埃をかぶり、今や似ているのは髪型だけだ。
『俺みたいなロクデナシが生きる道は、麻雀で勝って勝って勝ちまくる。それしかない』
何だかんだと新一と同じ道を歩もうとしているが、後悔など全くない。
「そう。相手が誰だろうが勝ちまくる。それはあンたが相手でも同じだよ全国大会の常連さんよ」
全て牌を取り終えた和弥は、ある程度理牌すると綾乃、麗美、そして恵にキッパリと言い切った。
「うはっ! 格好いい~! 久我崎に引き抜きたいね!」
「それと常連さんはやめて。恵でいいわ」
第一ツモを引き入れ、手出しで北を切った麗美と、そして恵は和弥を茶化すが、和弥は気にかける様子もなく九萬を切る。
9巡目。筒子の一通を聴牌したが、あいにくのカンチャン。
しかも一通狙いのせいで、捨て牌が萬子と索子に寄ってしまっている。
(リーチをかけて出る牌じゃない………。ここはダマだな)
そっと四索を切る和弥。
「へー。この巡目で四索手出しか~。一向聴か、それとも張ったかな?」
余計な事をベラベラと言ってくる麗美だが、和弥は徹底的に無視をする。
結局この局は流局になった。
「聴牌」
和弥は手牌を倒す。
「ノーテン」
「ノーテン」
綾乃と麗美は手牌を伏せたが、恵は違っていた。
「ふー、聴牌。何とかギリギリで張ったよ」
途中に六索を捨てている。四・五・六六索の形から、平和を捨てて和弥のアタリ牌の八筒を止めたのは明らかである。
(やってくれるじゃねぇかこの女………。先輩や久我崎の部長が連れて来たのは、伊達じゃないな)
和弥は自分の中に、久々に闘志が湧いてきたのを感じていた。
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