第54話:前哨戦
表向きのレートは1,000点100円・1,000点200円のみの、麻雀の聖地・新宿区北高田町でも“麻雀好きのメッカ”としても名高く学生も多数打ちに来る『紅帝楼』。
基本は知らない人間同士で打つフリー対戦が基本だが、セットでも打てる。セットというのは、4人または3人の友人同士、もしくは知り合い同士で客に1時間いくらといった形で卓を貸すことを指す。勿論、そのふたつを同時に提供する雀荘だってある。むしろ、大半の雀荘がそうであろう。
セットは友人、もしくは知り合い同士で打つのでルールは自由に決めていいが、フリーでは店側が決めたルールで打つのが原則だ。
地球温暖化の影響か、猛暑日がずっと続いていたが、今日は珍しく30度を切った。それでもまだまだ薄っすらと汗がにじみ出る状態だが。
「ち………。温暖化っていうより。地球が恐竜いた時代まで戻ろうとしているんじゃねえのかこれ」
ブツブツと悪態をつきながら、タクシーを止める。
『私は………。いえ、西浦家は。過去に新一さんに助けてもらった事があるのです』
タクシーに乗り込むや、父の遺影に線香を上げにきた小百合の母・双葉の事を思い出した。
(あの女性………。オヤジに惚れてたのを隠そうともしなかったな………)
ひょっとしたら、秀夫なら新一と双葉の事を知っているのでは……?
そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。丁度完全競技ルールも試してみたい。タクシーを降りた和弥は、早速紅帝楼に向かうべくエレベーターに乗る。
「いらっしゃいませー」
カウベルが鳴った瞬間、店員達の声が鳴り響く。
「あ、和弥クン。丁度良かった。和弥クンと打ちたいって3人来てるんだ。和弥クンが遅かったから、他の客を入れてもう打っているけど………」
「またかよ。挑戦者求むとか広告打った憶えは無ぇんだがな」
少々うんざりしながらも、シフトリーダーの井上がその3人が座っている卓に案内する。
(紅帝楼にきて俺を指名するという事は、腕には相当な自信を持った連中なんだろうな)
和弥の中に、謎の闘争心が湧いてきているのを実感するのだった。
◇◇◇◇◇
すでに席に座っていた3人の女性の内、2名は見覚えのある顔だ。和弥はウンザリする。何故ならその2人は───綾乃と、久我崎高校の部長・花澤麗美だからだ。
3人と対局していた男は、すごすごと場を後にする。そこら辺の大学生あたりでは、こうなるのは目に見えていた結果だった。
「また来たのか先輩。それに久我崎の部長さんも」
げっそりしながら和弥は、井上が持ってきた椅子に座る。女性以外で打っているのは和弥とは馴染みの客である。ならば自分と対戦しがっている3人目というのは、眼鏡をかけた少女である。
「ああ、竜ヶ崎くんにも紹介するよ。この女性、神奈川県東地区代表陵南渕高校の発岡恵ちゃん」
「始めまして。竜ヶ崎和弥くんよね? 白河さんからも花澤さんからも伺っているわ」
恵の言葉を無視するように、カフェ・オレを注文する和弥。
「発岡さん、ね………。どうもよろしく」
「私も選手権の個人戦は、完全競技ルール出場なの」
瞬間、和弥の動作が止まる。
「ほう………。それはそれは」
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!