第53話:ルール
翌日。立川南高校麻雀部の部室内。
龍子がゲーミングチェアに座る横で、綾乃はプリントアウトしたトーナメント表を片手に、大袈裟なゼスチャーを取る。
「という訳で。私たちが入った山には強豪校はいない。準決勝の久我崎までは何かない限り勝ち上がれるはず!」
「………別に。遅かれ早かれ勝ち上がれば必ず当たるんだろ? だったらどこからでも構わねぇがな」
目線も合わそうとせず、ノンシュガーのカフェ・オレを啜る和弥。
龍子も綾乃を気にもかけず、トーナメント表を見ていた。
「でも私もハナちゃんと当たるまでは負けたくないし。……絶対勝とう!」
(そこまで言うなら。なんで団体戦のメンバー辞退しんだよ先輩……)
和弥は心の中でツッコミを入れるが、さすがに口に出すのは慎む事にした。
「あ、あと個人戦出場も決めないとね。個人戦には一発・裏ドラ・槓ドラ・赤ドラ3枚の一般的な赤有りルール。偶然要素は裏ドラだけの半競技ルール。そして………」
一旦言葉を切った綾乃に、部室内が瞬時にシーン、となる。
「裏ドラ・一発・槓ドラ・赤ドラを一切省いた所謂“完全競技ルール”」
「うげ……」
由香が、露骨に嫌そうな声を上げた。
(……まあ、偶然要素を極力取り除いたルールじゃ、基本的には“強いヤツ”が勝つからな)
和弥の考えた通りだった。
小百合、由香、今日子、紗枝。他の部員の顔を見ると誰も競技ルールに出たがっていないのが分かる。
言うまでもないが、このルールでは赤入り麻雀に起こりがちな『一発大逆転』がない。手組みが上手くなければ勝ち目はないのだ。
「綾乃の言う通りだ。選手権は出場校の生徒は必ず、個人戦にも出場しなくてはいけない」
顧問として、龍子にも色々思うべきものがあるのだろう。珍しく悩んだ様子を見せながら、いきなり立ちあがる。
「麻雀部の顧問として指名する。完全競技ルールには竜ヶ崎、お前に出てもらう」
「………なんで俺なんですか。いや、喰いタン後付け無しとかじゃないなら、どんなルールでもいいですけど」
「じゃあ問題ないだろう。何が不満なのかね?」
全く面識のない他校の生徒と盤を挟み、運要素をほぼ排除した麻雀を打つ。『偶然要素に頼る事が出来ない』事は赤入りルールに慣れた人間には、分からないだろう。
「北条にやらせりゃいいでしょうが」
「な、なんであたしなのよっ!?」
和弥に名指しされ、今日子は激怒して立ち上がりかけた。
「テメェ、日ごろから『麻雀に運や流れなんてない』とか公言してるじゃねぇか。だったら偶然要素無しでもなーんにも問題ないだろ」
「なっ!? そ、それは……!」
「言っておくけど。俺も牌効率重視だが。でも麻雀なんて基本、アプリゲーのガシャみたいなもんだとは思ってるぜ?」
思うところがあったのか、今日子ばかりではない。小百合も由香も紗枝も、反論は出来ずにいた。しかし龍子が和弥を制止する。
「竜ヶ崎、そこまでにしておけ。綾乃、残りはお前が決めておけ」
そう言うと龍子は、書類を持って部室から出ていってしまった。
恨めしげな視線を投げてくる今日子に、乾いた笑みを浮かべるしかない和弥である。
(やれやれ……俺に強制的に決定かい……)
高校選手権の全国大会初日は開会挨拶のあと、早速団体戦、そして翌日には個人戦だ。
「こほん」
綾乃が咳払いをし、場を仕切り直した。
「それじゃあ、通常の赤有りルールは小百合ちゃん、由香ちゃん、今日子ちゃん、紗枝ちゃん。裏ドラのみの半競技ルールは私。そして完全競技ルールは竜ヶ崎くん。いい?」
(イヤだって言えない空気じゃねぇかこれ)
和弥は残りのカフェ・オレを飲み干すのだった。
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