第44話:思惑
「ツモ。發のみの500・300です」
小百合がパタリと牌を置いた瞬間、他の3人はがっくりとうなだれた。
立川南はほぼ西東京・地区予選準決勝突破を確実にした。これで和弥がラストさえ引かなければ、1位で決勝進出である。
「お疲れ様」
「ありがとう沢渡くん」
和弥の呼びかけに、控室に戻って来た小百合はふー、と息を吐く。
「さ、あとは沢渡くんが最下位さえ引かなきゃいいからね!」
「もう通過したも同然じゃん。今さら醜態晒すのは止めてよね?」
激励する綾乃、あくまで和弥を認めようとしない今日子。
「先輩、一つだけ確認しておく。1位と2位の違いにメリット・デメリットはあるのか?」
「え? そんなのあんま無いと思うけど。ただ、地区予選決勝とはいえ各学校の名誉が掛かっているから、誰も必死に勝ちにくるけど……」
綾乃に変わって答えたのは由香である。
「了解。じゃあ気楽に打たせてもらう」
そういうと和弥は、指をポキポキ鳴らして控室から出ていった。
「あ、あはは……相変わらずというか、なんというか……」
和弥に態度に引きつり笑いを浮かべているのは、紗枝である。
「面倒くさいヤツだよねー。協調性無さすぎっていうかなんていうか………」
「貴女が良くそんな事を言えるわね、北条さん。久我崎とのトレマでの貴女の振る舞い、私は忘れてないわよ?」
今日子の態度に、思わずカッとして反論する小百合。勿論今日子も小百合を睨み返す。
「まあまあ2人とも。そこまでにしなさい」
相変わらず、一見笑顔だが目は笑っていない綾乃。
「すみません…」
小百合は大人しく引き下がり、椅子に座る。今日子は相変わらずムスッとしたままだったが。
それにしても─――賭け麻雀にしか興味のない、むしろ競技麻雀を小馬鹿にしているようにすら思える和弥が、どうして突然協力を申し出たのか。小百合には未だに想像もつかない。きっと彼には彼なりの価値観というか美学があるのだろうか。まだまだ晴れぬ疑問の中、和弥の対局を見守る事にした。
◇◇◇◇◇
「リーチ」
いよいよ大将戦・東1局。和弥は南家。ドラは四萬。
10巡目。和弥からリーチが入る。
まずは全員現物を合わせてきた。
12巡目。
「ツモ」
和弥はツモった牌を静かに置いた。
今のところリーチ・ツモ・三暗刻・中の満貫。
裏ドラ表示牌を確認すると、表示牌はニ索だった。
「………3,000・6,000」
いきなりのハネ満である。控室で見ていた紗枝が、ため息をもらした。
「沢渡先輩って、タンピンが多い印象ありますから。ああいうのは珍しいですね」
「中を鳴けなかったからね。あれで張った以上、あの形しかないよ」
結局この後も他を寄せ付けず、和弥はトップ。立川南は首位で決勝進出となった。
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