第38話:サシウマ勝負・1
「御名答。今リーチもかけますんで」
挑発気味に尋ねてくる綾乃と目を合わせようともせず、和弥は点棒入れを開けると1,000点棒を取り出した。
「リーチ」
リー棒を置くと『リーチデス』という女性の電子音が鳴り響き、8巡目のリーチに両隣の中年達は静まり変える。
が、しかし。
「ポン」
綾乃が和弥のリーチ宣言牌・七萬をポンしたのだ。そして手の内から出してきたのは赤五索である。
「赤だぜ先輩?」
「通るんでしょ?」
平然と答える綾乃。
このポンにより、和弥がツモる筈だった牌が綾乃に流れるが、綾乃は次々と牌を引き込んでいく。
(チ………。完全に食い取られたか)
結局、東1局は流局となった。
「聴牌」
和弥は手牌を倒す。
他2名はノーテンの為手牌を伏せるが、対面の綾乃も手牌を開けた。
「聴牌」
(やるじゃねぇか。三色崩してまで、モノの見事に食い取ってやがる)
いつも飄々として本心を見せない、あっけらかんとした口調や雰囲気の綾乃だが───和弥は即座に警戒を強める。
(流石、伊達に部長って訳じゃないな。北条や久我崎のハダカデバネズミより、よっぽど打てるんじゃねぇのか)
(こんな奴でも十段なれるのか)という印象を持った今日子より、よほど鋭い印象を受けた。
東2局一本場。ドラは北。和弥の親である。
しかし9巡目。
「リーチ」
今度は綾乃がリーチをかけてきた。
(一見すれば索子は通りそうだが。全帯公系の愚形リーチだろ。
リー前が生牌の東をツモ切り、手出しで九索。手は高そうだな………)
ゆっくりとツモ牌に手を伸ばす和弥。
(問題なのは6巡目で一瞬考えた手出しの五索。おそらく五・七・九・九索からチャンタ確定させる為に処理したんだ。
9巡目に何かをツモって聴牌………)
ツモった牌の絵柄を確認すると、八索である。
(ヒドイ流れだな。一発でアタリ牌を掴まされたか)
仕方なく───でもないが、雀頭を入れ替える事にした。
「竜ヶ崎くんも強い牌打つじゃん」
「そうか? これでも安全牌切ってるつもりなんだがな」
和弥の下家の男性がツモの後、やや長考する。ついに意を決したのか、点棒入れを開けた。
「通ればリーチだ!」
しかし、男の願掛けは空振りに終わる。
「ロン」
「うわっ!?」
綾乃はパタリと手牌を倒した。
「リーチ・一発・チャンタ・三色・ドラドラ」
裏ドラが一萬なら三倍満まである。綾乃はゆっくりと裏ドラを確認する。裏ドラ表示牌は………九萬だった。
「モロ乗りしちゃった! 24,300」
(その捨て牌で良く八索を切れるもんだな。スジなんてアテになる捨て牌じゃないだろうに)
心底あきれ果てる和弥だが、下家が飛んで終了したという事実に変わりはない。
かくして2回戦目は綾乃のトップ。和弥は2位に終わった。これで1勝1敗。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!