第31話:痛恨の一打
「ちょっと、ふざけてるの? まだ2回戦終わっただけ…」
「別に。勝って嬉しい、負けて悔しいだけで済む麻雀は真剣になれないってだけだ」
見るからに不満そうな今日子だが、和弥は綾乃にノンシュガーのカフェ・オレを頼むと、さっさと椅子に座ってしまう。
突然代打を言い渡された感じの小百合は、少々困惑しながら席に移動する。
その時だった。
「………北条も委員長と同じだ。
萬子・筒子・索子・字牌の順に理牌しないと打てないみたいだぞ」
耳打ちして椅子に座る和弥。
やはり竜ヶ崎くんは良く見ている、と感心しながら小百合は席に座った。
3回戦目。起家はまたも今日子でスタート。ドラは九索。
小百合の配牌。
赤五筒こそあるものの、カンチャンばかり。これはツモが良くなければ、先制を許してしまうだろう。雀頭がない以上、安直に發をポンも出来ない。
第一ツモは七萬。小百合は面前の手なり、123の三色の可能性は薄いと考え、一萬から切り出した。
しかしそんな小百合の思惑とは裏腹に、いきなり場が動く。
まず2巡目に今日子が切った中を紗枝がポン。そして今度は紗枝が切った北を、下家の由香がポンをした。
さらに次の巡目で由香が切った六萬を今日子が五七でチー。そして小百合には六筒が入り、切った白を紗枝がまたもポン。
いきなりの鳴き合戦で場が荒れる。小百合は一呼吸して、場を見回した。
まず今日子と由香だが、捨て牌には特に目立った特徴はない。おそらく安手だが最速和了りを狙っているのだろう。
問題は紗枝だった。萬子・筒子・索子全ての中張牌がバラバラに切り出されている。明らかに混老頭と、下手したら小三元まであるかも知れない。
いずれにせよ混一色ではなくとも、対々和系列であることには間違いない。
仮に違っていたとしても、打点は低くはなく満貫以上の手と見るべきだ。
小百合の手の中の發は危険牌、文字通りの爆弾と化した。
(もうこの發は切れないわね………。ひょっとしたら、高目大三元まであるわ)
しかし直後である。
その發を何と、今日子が切ったのだ。
ポンの発声はかからなかったが、さすがにこれには小百合も驚く。
「あれ? 鳴かないの紗枝ちゃん?」
「私の手の中に、發が無いのを分かってて切ったんですよね?」
一見ほのぼのとする先輩・後輩の会話だが、小百合にはたまったものではない。
何かをツモったのか、紗枝の手から出たのは赤五索である。
「え?」
「はい?」
紗枝は少々驚くが、平然と發を見逃し、赤五索もツモ切りした紗枝に思わずヘンな声を上げてしまった小百合。
大三元の可能性は無くなったが、まだ小三元の發単騎待ちの可能性は残っているのだ。
(ひょっとしてもう聴牌?)
小百合には最早發は雀頭にする選択しかない。自分でもそう思いながら、四筒をツモり一筒を切り出す。
「ロン」
「あ………」
(何をやってるの私!? 見え見えの混老頭狙いなのにっ!!)
激しく後悔する小百合だったが、それは後ろで見てた綾乃も和弥も同じ心境だった。
(………舐めすぎだよ小百合ちゃん。今の一筒は不用意すぎるよ)
「混老頭・対々和・白・中・ドラドラ。16,000」
(混老頭の気配も感じていたのに………。一体何をしてるの私………)
魔が差した、としか言えない放銃だがもう遅い。
東2局。倍満を和了った紗枝の親でスタートだ。
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