第29話:決意
「あの……私、東堂先生に聞いてみたんですけど。部長さんも西浦先輩も、すごく麻雀強いって」
「うん。でももっと強い人がいるよ。彼! この部では間違いなく最強だから!」
和弥が綾乃を指さす。
「そ、そうなんですか!? 私、麻雀あんまり知らなくて……」
「一人だけ次元が違うよ、彼の強さは」
綾乃の大袈裟な紹介に、和弥は心中複雑であった。
「………人に教えるのは、あんま上手い方じゃねぇけどな」
和弥が相手の視線や盲牌の時間すら把握して打っているのを知っている小百合は、複雑な思いを感じる。
競技麻雀こそ至高と思っていた自分が、賭け麻雀しかしてこなかった和弥に全く歯が立たなかった、紅帝楼での一戦を思い出してしまったからだ。
「大丈夫よ中野さん。私も憶える前は何がなんだかだったけど。今はこうして麻雀部の部員でいられるわ」
気持ちを抑え、紗枝に声をかける小百合。
「そうそう! 麻雀なんて憶えればみんな強くなれるからね!」
紗枝の心配を吹き飛ばすような小百合と由香の言葉に、
その言葉に紗枝はホッと胸を撫でおろす。和弥も内心同じ気持ちだった。
(まあ、嘘じゃないわな。回数重ねないと強くはなれない)
そんな時、再びドアがノックされた。
「どうぞ」
由香がドアを開ける。来たのは顧問の龍子だった。
「む。中野のことはよろしく頼むぞ皆」
「あ、東堂先生…」
驚く紗枝を見て、龍子は一礼する。
「地区予選。ウチのブロックである、グループ4の組み合わせが決まった」
「で、どうだったの先生? クジの結果は」
綾乃の問いに龍子は答える。
「これが他の3校だ。まあ実力的には問題はないと思うが、油断は禁物だ」
そう言って龍子が見せるリストには3校が記してあった。
八王子市・明和西高校
日野市・清川高校
西東京市・白築高校
「ふーん……強いトコと当たらないようにクジを引いてくれたんだ」
「そんな訳なかろう」
惚けたような綾乃の態度に、龍子も苦笑いを浮かべる。
「冗談だよ、先生ったら。それにしても、聞いた事ない高校ばっかだし。ウチが優勝候補ってとこかな?」
組み合わせ表を見た和弥は内心で思う。
(まあ………地区予選の相手に手こずるようようじゃな。すっぱりと全国への切符手に入れないと)
「東堂先生。今年のブロック予選は、確か2回ですよね? それで決勝卓に進出できるはず」
由香が質問する。
「うむ。よく知ってるな」
「そりゃあ、あたし達に関係ある事ですから」
少し考えたあと、龍子は答えた。
「先月も言ったが、今年のウチは強い。トレマで私は確信した。『全国制覇を狙える』と。あとはカンを鈍らせないようにするだけだ」
龍子が胸を張るように断言すると、綾乃が口を挟んだ。
「それじゃあ紗枝ちゃんの歓迎も兼ねて。一局打ってみますか!」
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