第28話:ニューフェイス
「ツモ。これ和了って勝てないんじゃ、自分はヘボだと諦めるしかないですね」
和弥はパタリと手牌を倒した。
「16,000オール」
「うわ、四暗刻っ!?」
「マジかっ!? 逆転の一手だったのになぁ……」
同卓していた府中商業高校麻雀部の部員は、ため息を付きながら和弥に点棒を払う。この四暗刻で1人が飛び、この局も和弥の勝利に終わった。
勿論気の緩んだ麻雀を打つと、それがクセになるのを和弥は知っている。
しかし野球の満塁ホームラン、サッカーの超ロングシュートと同じく役満は麻雀の“華”。牌効率重視打法の和弥とはいえ、狙える時にはとことん狙うのだ。
「ダメ。心が折れたわ。私、これで失礼するわ」
「じゃあ俺も。自信無くしそうだ」
府中商業の部員達は、静かに席を立った───
その後も立川南高校麻雀部は、トレーニングマッチで連戦連勝を続けた。
「立川南にとんでもない奴が入部した」との噂は、瞬く間に駆け巡ったのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇
6月になり、立川南の生徒達も夏服に切り替わった。麻雀部の部員達も然りである。
「北条さんはまたサボリ?」
「まあまあ。サボリって言い方は良くないよ小百合ちゃん」
これまでも「用事がある」「体調が悪い」「配信がある」など、何か理由をつけて部を休むことがあった今日子だが、ここ最近はそれがさらに頻度を増してきた。
ただ、今や部のエース格となった和弥も「ジムに行きたい日は休む」を入部の条件につけているため、綾乃もそこは強く言えない。
「いよいよ来週からだな。地区予選」
部室で和弥が呟く。
「だ……大丈夫かな……あたしたち」
不安そうな表情を浮かべる由香。
「大丈夫! 問題ないよ!」
自信満々の綾乃だが、その根拠はどこからくるのか誰も分からなかった。
そんな時、部室のドアがノックされた。
「はい? 空いてますよ。どうぞー」
綾乃がドアを開けるとそこに立っていたのは、夏用の白いセーラー服に身を包んだ、亜麻色のセミショートを三つ編みにした少女だった。
「あ、あの……東堂先生に聞いてきたのですが……こちらが麻雀部でよろしいでしょうか?」
「ええ。どちら様でしょうか?」
クラスメートすら興味のない和弥はともかく、少なくとも2年では小百合も、そして由香も見た事のない少女である。
「1年の中野紗枝といいます。麻雀部に入部したくて、ポスターを頼りに来ました」
紗枝は丁寧に入部届を差し出した。
「おー! 大歓迎だよ! 5人ギリギリじゃ心許ないしね!」
綾乃はいつものオーバーアクションで、紗枝を歓迎する。
「さ、入って入って!」
綾乃は部室に紗枝を招き入れた。
「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
一礼する紗枝。入部届を受け取った綾乃は、部員を見回して尋ねる。
「これで6人か。当日病欠とか出ても安心だね」
由香の言わんとすることが、今日子の事を指しているのは明白だった。
「中野紗枝ちゃん、だったね。アイスティーでいいかな」
「あ、すみません」
どこかオドオドした様子の紗枝に、綾乃がグラスに氷と冷やした紅茶を注ぐ。
「ほらー。小百合ちゃんも由香ちゃんもそんな緊張しないで。和弥くんが入部してさらに6人目で部活とか、もうワクワクが止まらないよ!」
「東堂先生からは、麻雀部はレベルが高いって聞いてるので……私なんか、ついていけるかどうか……」
不安そうな紗枝に、綾乃は明るく答える。
「オフコース! 今年のウチは団体・個人の全国制覇が目標だからね!」
その言葉に驚く一同。だがそれは紛れもない綾乃の本音である。
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