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第2話:初めて入店した雀荘

 やがて3階に着くと、『雀荘・紅帝楼(こうていろう)』と縦書きに店名が打たれた置き看板と、木製だが丈夫そうな扉が小百合を出迎えた。

 小百合が気になったのは、扉の隅に取り付けられた『18歳未満はノーレートとさせていただきます』という内容の注意書きプレートである。


 20XX年。野党はおろか与党内の反対派からも『カジノ解禁法だ』との猛批判が上がった、通称IR法───がお構い無しに施法されてから、あちこちに合法ギャンブル場が出来た。

 フリー雀荘も所謂(いわゆる)1,000点100円(テンピン)”、“1,000点200円(リャンピン)”まではOKとなった。が、それもあくまで満18歳以上の話である。

 勿論、法では認められていない巨額を賭けて戦う、通称“ハウス”と呼ばれるマンション麻雀などの「裏雀荘」は昔も今も存在するが。

 もし和弥のような未成年がこんな雀荘で金を賭けて打っていると分かったら、警察は補導名目で問答無用で連行するだろう。


 しかしながら、小百合には“確信”があった。一つは和弥の父の噂。これは小百合が入っている部活でも時々話題になっていたが、何よりある人物(・・・・)からの情報で、時々耳にしていた。

 そしてもう一つ。小百合は数日前にも、このビルの中に和弥が入っていたのを目撃しているのである。


 小百合は意を決して、ドアノブを握りドアを開ける。

 瞬間、カランカラン、と取り付けていたカウベルが鳴り渡り、ドアの付近の客の視線は一斉に小百合に集中した。


「いらっしゃいませー………」


 雀荘では“メンバー”と呼ばれる店員達が小百合に声をかけるが、やはり内心は驚きを隠せなかったのだろう。

 それはそうだ。

 尋ねてきたのがこんな雀荘には場違いと言っていい、セーラー服を着たロングの黒髪の美少女なのだから。 

 賭け麻雀を嫌悪している小百合は、中年達の視線を感じて睨み返すと、全員慌てて目線を逸らした。


(皆賭け麻雀に興じてるのね………)


 内心ウンザリとする小百合である。


「あの、お客様………当店では………」


 店員(メンバー)の一人が小百合を見ながら、おずおずと声を掛ける。勿論、レートについてであろう。


「いえ、麻雀を打ちにきた訳ではありませんのでご安心を………。この店に、学生服を着た男性が来店しませんでしたか?

 髪型は前髪と襟足(えりあし)を紫に染めた、海外のロックアーティストみたいな」


「………あー。和弥クンのことか。今打ってる最中です」


「っ! やっぱりいるのですねっ!!」


 メンバーが『しまった』という表情を浮かべ、もう一人は顔を合わせながら(いぶか)し気に小百合を見る。


「あの、お客様………。先ほど言いかけましたが、当店では18歳未満の方はノーレートで………」


 しかし、小百合も一歩も引く気はなかった。


「私は彼と同じクラスです。彼がこの店で打っているなら、何も問題はない筈です」


 これ以上は下手な言い訳は出来ないと悟ったのか、メンバーは渋々だが和弥の打っている卓へと案内する。

 小百合は改めて店内を見回した。フロアは非常に清潔そのもので、タバコも禁煙部分と喫煙部分があるようだ。ただ、小百合が追ってきたその人物は、喫煙コーナーの隅の卓に座っていたが。


「………和弥クン。知り合いって女の子が………」


「知り合いだ?」


 メンバーが話し掛けると、伸ばした襟足を紫に染め、学生服を脱いで上は青のピンストライプのYシャツのその少年は、肩越しに振り向いた。

 振り向いた和弥は、先ほど助けた同じクラスの委員長である小百合なのを確認すると、眉を(ひそ)める。


「………こんな店に来るとか、委員長も物好きだな。それとも俺が店で打ってる現場押さえて、学校にチクろうってハラか?」


 軽く減らず口を叩いた和弥は、卓の方を向き直ると再び打ち出した。和弥の後ろで立っている小百合を見て、慌ててメンバーが駆け寄ってきた。


「お客様、8卓が1人(ワン)欠けしたので入れますが………」


「いえ、結構です。彼がどう打つのかを見に来ただけですから」


 困惑しているメンバーに、和弥は助け船を出す。


「井上さん。彼女に椅子でも持ってきてやってくれ」


 和弥に井上と呼んだメンバーに待ち合い用の折り畳み椅子を持って来させた。


「それに座れよ委員長。立ってるのも疲れるし、皆の注目の的だろ」


 小百合も納得したのか椅子に座ると、井上達メンバーは安堵の表情を浮かべ、またフロアの巡回を始める。

月・水・金曜日に更新していきます。

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