第288話:オリ
南2局の和弥の配牌。ドラは九萬。
現状、スピード面がまるで最悪な手だ。はっきり言って、無理にアガリを目指さないほうがいいだろう。和弥もオリ覚悟で手を捌いていった。
この局はやはり、菱崎の仕掛けは早かった。3巡目の白をポン、続く4巡目に六萬を七・八でチーした。
7巡目にニ筒をポン。菱崎の手をジッと見る和弥。
二筒をポンしたときの最終打牌は一筒だった。つまり一・ニ・ニ筒と持っていて、三筒でもチーをして面子を作るために持っていたのだろう。筒子の上は序盤にバラ切りしてあるので、もう手の内にはないと踏んだ。
(つまり待ちは、萬子か索子に絞られる。比較的索子のほうが高いので、危険度はそちらのほうが若干上と言えるか)
ちなみに和弥の手牌は───
配牌からさして変わっていない。とはいえ、菱崎に対してドラの九萬を切りたくないため、アガリに向かう気はほとんどなかった。
和弥の手がまったく変わらぬうちに、菱崎が再びツモアガリをした。八索と九萬のシャボ待ちで、九萬のほうをツモったのだ。
「4,000オール!」
親満のツモアガリ。再び菱崎のリードは広がり、その点数は既に42,200点という数字になっている。
次の彼の親番で、この勢いを止めることができるのか。それとも、さらに突き放されてしまうのか。
南2局一本場。ドラは三筒。
和弥の配牌はまあまあ好形と言える。筒子のカンチャンが横に伸びるなりで上手く纏まってくれれば良形聴牌が約束される。しかも表と赤を合わせてドラ3なので、ハネ満まで見える手だ。
しかし、一枚だけポツンと厄介な牌が潜んでいる。東───これだけは菱崎に鳴かせたくない。聴牌までは抱えるつもりだった。
第一ツモは八索。暗刻になれば平和が消えるが、聴牌を逃すほうが痛い。和弥は迷うことなく八索と四萬を入れ替えた。
以降、六巡目まで、有効牌を一枚も引けなかった。鳴かれる可能性のある中を途中で持ってくる。
(あまり抱えすぎても自分のアガリ目がなくなる……)
これはツモ切りした。
7巡目にしてようやく、九筒を持ってきた。筒子の受け入れが広くなる関連牌といえばそうなのだが、正直、和弥はあまり嬉しくはない。ダイレクトに面子完成となる六筒は当然、両面に変えることができる八筒のほうが断然欲しかったところだ。
(来たものに不満を言ったって仕方がない)
せっかくできた両カンは残すとして、選択打牌は八索か。
一度、東に手をかけはしたが、すぐに離した。やはり手放すのはまだ早い気がする。ここは七・八索の両面固定でいいだろう。和弥は八索を切った。
しかし次のツモは、八索だった。
(イラつくな、俺。牌が4枚あれば重なることだってある。東を切っていたら鳴かれてツモが変わっていたかもしれないじゃない)
それに、八索を捨て牌に2枚並べれば六・九萬待ちとなったときに出易くなる。これは一概に失敗とは言えないハズだ。和弥は気を静め、そっと八索をツモ切りした。
そういえばこの局は、菱崎が大人しい。捨て牌にも特徴がなく、平凡なシュンツ手を進めているように見える。だが、東は対子で持っていて、今か今かと出てくるのを待っているのかもしれない。いずれにせよ、和弥は聴牌まで抱えるつもりだった。
次巡、和弥は待望の六筒を引いた。これで残るは両面ふたつ。平和が確定してくれた。九筒を切り、イーシャンテンに構える。
打点は十分だが、東を叩き切る以上ダマにしたって警戒されることはわかっている。なので、リーチをするつもりだった。
しかし、先制したのはこの局ずっと大人しかった菱崎であった。
彼はドラの三筒を切ってリーチをかけてきた。直後、私はテンパイとなる八萬を持ってきた。
菱崎がリーチ───というのは困る。東を切ってポンならまだよかったが、リーチとなればロンという可能性が浮上してくるからだ。しかも今打てば一発がつき、裏でも乗れば親満は確定してしまう。
(こんなことならもっと早く手放すべきだったか?)
思わず、そんな後悔の念が生まれてしまう。和弥は苦りきった表情になり、現物の三筒に手をかけた。
ハッとなって、手を止めた。
(ドラ雀頭を落とし、この手を降りるのか? そんな打ち方をしていたら、いつまで経ってもこの状況が好ましいものに変化することはない)
しかし、もしも当たりだったら……葛藤に苛まれ、完全に指が止まってしまっていた。
「早く切れよ」
菱崎が挑発気味にボソリぼそりと呟いた。
「聴牌ならリーチでもしてみたらどうだ? 迷わなくて済むぜ」
「簡単に言ってくれるな……」
和弥は苦しい表情をそのままにそう返答し、やがてふうっと息を吐いて、ドラ雀頭の対子落としという道を選択した。
「ふーん、オリたんだ」
菱崎は目を細める。
「“どうにもこれだけは”って牌なもんでね。この局は抱えて死ぬことにするぜ」
「ふーん……」
次巡、和弥はさらに一枚東を持ってきた。これを雀頭に振り代えて聴牌にとる。
結局この局は流局となった。
「聴牌」
「ノーテン」
「聴牌」
「ノーテン」
(こいつ…東を止めやがったのか)
じっと和弥の手を見る菱崎であった。
和弥は手牌の右端に置いてある東と一筒のシャボ待ちを見て、今一度心の中で安堵の溜め息を漏らしてから、手牌を収納口に流し入れた。




