第287話:逆襲の一手
東4局。和弥の親。ドラは3萬。
「ロン。2,000」
菱崎が手牌を倒した。
發・ドラ1で、2,000点の手。
(───負け惜しみではないが。もっと高い手で突っ張ってきているのかと思っていたぜ)
親っかぶりを食らった和弥は、淡々と1,000点を支払った。
(それにしても、ずいぶんと落ち着きのねぇ騒がしい麻雀打つようになったな。サシウマ言い出して緊張しているのか?)
和弥はかすかに微笑んだ。それを受け、菱崎は和弥から受け取った点棒を箱にしまいながら鼻で笑い返した。
「麻雀は一番先にアガった奴が勝ちなんだよ。倍満、役満張ってたって、アガれなきゃなんの足しにもならない。そんなの基本中の基本だろ?」
「別に、それに反論はねぇよ」
「俺のことを笑ってる余裕あるのかよ。また点差が開いたぜ」
「……それがどうした」
和弥が不敵な笑みを浮かべながら、牌を落とした。
南1局、和弥の手牌だ。ドラは六筒。
チャンス手を蹴られたあとなので悪い配牌が来ると思っていたのだが、そこまで悪くはなかった。というより、むしろ678の三色が狙えるいい手だ。ツモが利いてくれればの話だが。
1巡目のツモは西。これも不要牌だが、九索を先に切る。西は風牌なので、1巡目から動かれるのはやはり厄介に思えたからだ。サラリーマンは1巡目だろうと仕掛けるなら仕掛ける打ち手だということは、この店に何度も足を運んでる和弥には理解できた。
とはいえ時間の問題ではある。こちらの手が進めば、こんな牌をいつまでも持っておくワケにはいかない。
しかし、役牌をギリギリまで絞れば、彼は他の牌から仕掛けることができなくなる。こちらとしてはそれが狙いだ。
だが、そんなことは関係ないようだった。
「チー」
彼は2巡目に菱崎が切った一萬を二・三の形から仕掛けた。
么九牌の仕掛けとなると、他家はやりづらくなる。まず役牌全般は安易に切り出せなくなるし、特に上家の人間はチャンタで使われる牌はすべて鳴かれる可能性があると考えながら打つ必要があるからだ。この仕掛けに、菱崎はどう動くのだろう。
いずれにせよ、和弥は当初の予定どおりギリギリまで西と中は抱えておくつもりだった。三色のテンパイが近付いてきたら勝負に出る。
それから4巡後、再び結衣が動いた。菱崎の三索を今度は一・二のペンチャンの形でチーした。
普通に見れば、チャンタ三色。しかし三色ではなく役牌を絡めているというセンがある以上、和弥もまだ不用意に前に出ることはできない。既にテンパイしているとしたら放銃となり、この局は終了となってしまう。
和弥の手もここまで育っていた。
西はいまだ初牌である。
その2巡後に、仕掛けに怯まずまっすぐ打っていた菱崎がついにリーチを入れた。捨て牌を見るに、タンピン系の手であると思われる。サラリーマンの仕掛け方や和弥の手に赤が一枚もない点を見るに、おそらく菱崎の手の内にあるのだろう。となれば、値段は言わずもがなである。
(さて、俺はどうするか…)
いちおう南が場に2枚出ているので、雀頭を落としての回し打ちということもできる。そうすればしばらくは西を勝負する必要もなくなり、サラリーマンを困らせることもできるだろう。
しかし、次の和弥のツモは七萬であった。こんな牌を引かせてくれるのであれば、回るのはもったいないというもの。和弥はサラリーマンの仕掛けを一瞥してから、意を決して河に西を横向きに置いた。
「またメクリ合いだな。リーチ」
私以外の声はかからなかった。サラリーマンは持っていなかったらしい。代わりに持っていたらしいもう一人のサラリーマンが、和弥に合わせるように西を捨てた。
(この勝負、もらった)
菱崎にはリーチ合戦で負ける可能性はあるかもしれないが、少なくともサラリーマンに負けることはないだろう。
菱崎の一発目のツモは不発。五・八索でもなかった。続くサラリーマンのツモ番。
彼は引いてきた白を、そのまま河に叩きつけた。
(………)
ゆっくりツモ山に手を伸ばす和弥。見えたのは高目の八索だった。
「ツモ」
今度は和弥の勝ちである。
「リー・ヅモ・三色・ドラ。裏も一丁で3,000・6,000」




