第25話:猛追
振り込んだ今日子は内心動揺していたが、出来る限り無表情を装い和弥に点棒を渡す。
とはいえ今の光景には筒井も麗美も、そして後ろで見ていた小百合、由香、そして綾乃もかなり驚いていた。
(す、凄いわ竜ヶ崎くん………。あの手を一手も間違えず、ハネ満に持っていくなんて………)
接戦ならベタオリを考えてもいいくらいの、腐った配牌である。それをまさか、面前純チャンまで持っていくとは。
“観客”の立場で後ろから見ていると、普段見えないものも見えたりする。あまりの和弥の劣勢にハラハラしていた小百合にも、筒井が七筒を鳴いた瞬間八筒を暗刻で持っているのは、即座に分かった。
(三色の可能性が無くなった瞬間、あたしならもう心が折れていたかも………)
単に伝説の雀士の息子というだけではない。由香もため息が出そうになる。
(タイプ的に絶対合わなさそうな小百合ちゃんが、やたらに推してきた理由が分かったよ)
部長の綾乃にも、和弥が恐ろしい力量と冷酷なくらいの判断力を持っているのが分かった一局だった。
南3局。親は筒井。ドラは六索である。
「ふぅ。やっと俺に牌勢が戻ってくれたぜ」
「牌勢ってなんだそりゃ。君はひょっとしてあれか? 今時麻雀に『ツキや流れはある』って信じてるタイプか?」
理牌し終えた和弥の不敵な笑みに、筒井は内心は動揺しながらも懸命に強がった。
「へぇー、そうかいそうかい。麻雀にツキや流れなんて存在しないってんなら。
それじゃあこの手を和了ったら。紛れもない俺の実力って事で文句は無ぇな?」
第一打で一筒を切る和弥。
「ええ、和了れたら、ね」
先ほどハネ満を放銃した今日子は完全に押し黙り、懸命に取り繕う麗美も、東場の威勢は完全に消えている。あの竜ヶ崎新一の息子という事だが、実は内心それほど期待していた訳ではなかった。しかし、その想像とは全く違った。
(いやはや………。大したもんだねこの子。見かけと態度はイケイケでも、いざ打ったらコンピューターみたいに冷酷じゃん。ここは絶対に止めないと)
しかし、2巡目───
「リーチ」
「えっ!?」
「ま、まだ2巡目だぞっ!」
北を切っての和弥のリーチに、今日子も筒井も思わず声を上げた。そして5巡目。
「ツモ。高目がいたよ」
パタリと手牌を倒す和弥。
「メンタンピン・ツモ・三色・ドラ・赤」
ゆっくりと裏ドラを確認する和弥。
「裏も一丁だが関係ないな。4,000・8,000」
親っかぶりで和弥に2,000点差に詰め寄られた筒井は、顔面蒼白である。
「ちょっと安全運転しすぎじゃないのか? 天上位さんとやらよ」
「ア゛ア゛ッ!?」
点棒をしまい不敵に笑いながら収納口に牌を落とす和弥に、筒井は思わず激昂した。
「東場で親ッパネと親満を和了ったくらいで、点数差に押しつぶされるとでも思ったのかよ? この俺がな」
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