第267話:小百合の挑戦・3
本作にもあるような対子2個か3個から一枚も被らず七対子、あがれると爽快ですね笑
東2局。わずかではあるが、まだ向こうがリードしている状態だ。
腰が据わった麻雀を打つ小百合に手数はあまり望めないと思われるが、彼女は代わりに一撃の破壊力がある。親までにそれが炸裂してくれれば、優勢は約束されるというものだ。
無論、ここが小百合にとって重要な局面であることは筒井たちも重々承知しているハズ。“なにか”を仕掛けるのならば、ここなのではないか。
菱崎がサイコロボックスのスイッチを押す。狙ったかどうかはわからないが、出た目は6だった。
親の菱崎、上家、小百合、筒井の順に配牌を取り始める。その時である。
「チッ」
小百合は一瞬だけ舌打ちをした筒井に、違和感を覚えた。
(……通し?)
───いや、気のせいか。彼は王牌に手をかけ、ドラ表字牌をめくっただけだった。サインを送ったとか、不自然なことは別に何もしていない。
しかし、どうにも何かが小百合の中に引っかかっていた。全ての配牌を取り終えてからも、小百合はしばらくその違和感に意識を惹かれてしまう。
筒井が取った動きを、頭のなかで繰り返す。上家の山から配牌の第2ブロックを取り、それを手元に持ってきてから、王牌に手をかけてドラ表字牌をめくる───
いずれにせよ、全自動卓である以上小百合には狙った目を出すという芸当はできない。この段階でできることは“勝利を目指すのみ”なのだ。全員が配牌を取り終え、東2局が開始された。ドラは九萬。
赤五索と九萬はあるが、筒子の混一色に纏めてよさそうだ。役牌の新たな重なりやドラの使い方次第ではハネ満まで育ってくれる。打九でスタートし、他家、特に菱崎の警戒に入る。筒井よりもこの男が、どうにも怪しく思えて仕方がない。
しかし、何かが起こることもなく、8巡が経過した。
肝心の發だけが一向に出てこないまま、面前一向聴となった。東は2枚切れだが、安全牌として持っている状態だ。
ちなみに、さっき“なにかが起こることもなく”とは言ったが、それは裏トリック関連の話であり、副露という意味での動きはかなりあった。4巡目に小百合が切った赤五筒がが四・六の形で筒井がチーし、続けて上家が切った二筒をポンした。筒子の連続仕掛けだが、捨て牌を見るに染めてはいなさそうだ。おそらくタンヤオ赤赤といったところか。
続いて、6巡目。小百合が切った中を菱崎がポンした。彼は萬子を一枚も切っておらず、まっすぐ染めに向かっていると思われる。
そしてたったいま、菱崎が八筒を上家からポンした。切り出しは四索。親が索子で染めている状況での四索切りが危険ということは言わずもがな、聴牌したと踏むのが妥当か。
(さて、困ったわね……)
小百合も高い打点が望める一向聴ではあるが、相手が既に聴牌であるなら不利と認めざるをえない。そして達者な打ち手である筒井なら、小百合から必然的に切り出される筒子以外の色で受けているハズだ。
小百合はこういうときに決まって湧き上がってくる嫌な感覚を必死に振り払いながら、ツモに手を伸ばした。───四萬。引いた瞬間、じっとりと指にくっついてきた。
(これが当たりだわ、間違いなく。でも万が一通ったら───)
牌を手にしたまま、小百合はしばらく葛藤に苦しむ。
しかし最終的に、“放銃しても高くはないハズ”という考えと、“通ればこちらにもまだチャンスがある”という誘惑に負け、その牌を切り出してしまった。
「ロン」
「ポン!」
ふたつの声が、それぞれ菱崎と筒井から聞こえてきた。言うまでもなく和了が優先されるので、菱崎が手牌を倒す。
やはり打点は安かった。チャンス手を、そして親に連荘させられたのは痛いが、大きな失点にならなかっただけよかったと言えるか。
「お前な…そんな安手で和了るなら俺にポンさせろよ!」
「先輩、状況分かってます?」
「勿論。ホンイツの二向聴だったんだぜ」
「……そうですか」
筒井との会話を打ち切り、呆れたような表情をしながら手牌を中央の穴に流し入れる菱崎。
敵はこの男か。───筒井には失礼だが、そう思わざるをえない。
不定期連載ですが、ブクマや☆5をいただけると更新が早くなるかもしれません。




