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第266話:小百合の挑戦・2

「君がか〜…。団体戦の時のこともう忘れたのかぁ〜」


「あの時はあの時、今は今です」


 全国大会の団体戦での圧勝からか。筒井は明らかに小百合を見下してきている。しかしそんな筒井に対し、小百合は完全に戦闘態勢だ。


(麻雀はメンタルのゲーム、そうやって気持ちで負けないことは大切だぜ…)


 後ろから今度は小百合の応援に回った和弥も、小百合の姿勢を評価する。


「何か特殊なルールつける?」


「特に特別なルールはいらないわ。普通の麻雀で結構です。私と貴方のサシ勝負。もう一度言うわ。あくまで貴方と、私の勝負です。それでも参加されたい人がいるなら、どうぞ」


 自分で言っておきながら、小百合は麗美が来るのを覚悟した。しかし筒井の“ご指名”は違う人物だった。


「おい菱崎。お前入れ」


「え? いいんすか?」


 菱崎と呼ばれた軽薄そうな少年は、上家と入れ替わりで席に座る。


「あ、俺菱崎っていいます。鳳凰荘ってゲームではダイヤってネームで九段です」


「───そう。よろしく」


 十段の今日子の醜態を何度も見ているだけに、九段程度で大きな顔をされても興味なんて湧かない───それが小百合の第一印象だった。

 東1局。ドラは三萬。北家(ペーチャ)スタートの小百合は開局から気合を入れているのが後ろ姿でも分かったが、彼女の意に反して配牌は平凡なものであった。

挿絵(By みてみん)

 さて、小百合はどうするべきか。わざわざ菱崎を指名した以上、筒井ががなにかをしてくるのはまず間違いないと言える。手を進めることも無論だが、相手の手元を観察することも重要だ。特に、自分の位置からでは新たに対面に座った菱崎の小細工を阻止することができない。彼の見張りも重要な仕事だ。

 第一打の西(シャ)を切る菱崎の動きを注視して見届けたあと、小百合は自分のツモに手を伸ばした。

 ───手牌の進行は悪くはなかった。いや、むしろ良いといっていい進み具合だった。

挿絵(By みてみん)

 2枚の赤を引き入れ、7巡目にこの形。できることなら好形で聴牌(テンパイ)したいところである。

 次巡、四索を引いてきた。ツモ切ればカン三索待ちが残った場合にスジ引っ掛けにはなるが、小百合はまだ伸ばすつもりで八萬と入れ替えた。

 尚、ここまで2人に目立った動きはない。3人目である下家も何かをした様子はない。


(───筒井さんはアシストに徹するのかしら)


 1巡ツモ切りを挟み、その次に、小百合は八筒を引いてきた。役アリの聴牌になってくれたが、小百合は筒井と菱崎の出方を見るという意味でもリーチをかけた。

 彼女のリーチに対して、どう動くのか。ベタオリか、回し打ちか、それともアシスト芸を披露するのか。

 やはりリーチに対して一番有効な回避術としてベタオリがあるが、普段から天上位であることを自慢している筒井だけに、その可能性は薄いように思う。しかし和弥のような驚異的な一点読みの能力を果たして筒井が持っているか?

 答えはNoだ。

 ならば菱崎が安い手を作ってワザと振り込む“サシコミ”。こちらは十分可能性はある。


「リーチ」


 案の定菱崎が五索を切って追っかけリーチをしてきた。

 1巡してから六索を切る筒井。


「ロン。リーチ・平和(ピンフ)のみの2,000」


 裏ドラも乗らず。だが小百合のリーチ棒は菱崎に回収されてしまった。


「ひっど…。宣言牌五索に対してド裏筋の六索だって……」


 聞こえるように、わざと由香が呟いたのだった。

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