第265話:小百合の挑戦
「………」
ただ黙って、席を立つ和弥の横顔を見つめる拳を握りしめながら見つめる筒井。立川南も、久我崎も、全員まずいと思った。全国大会の五条歩美のように、激情に駆られて牌を投げつけたりしないといいのだが。
また、上家と下家も同じように緊張の眼差しを筒井に向けていた。───全員から見ても、“ヤバい”ということだろう。
しかし、筒井は彼女たちの緊張を裏切る反応を見せた。突然、大きな声で笑い出したのだ。
和弥は白けた目で筒井を見ていた。他の全員は、一人笑いをしている筒井を、ただただ唖然と見つめるだけ。しばらくして、和弥が苦笑を浮かべながら彼女に言った。
「どうした。こっそりクスリでもキメたんか」
「いや、ごめんごめん。ただ、君はやっぱり面白い奴だなって思ってさ」
「あ?」
「この俺相手にここまでナメた態度取ってくれる奴は初めてだ。今回は確かに俺が負けたかもしれないけど、次は絶対に俺が勝つ。俺をナメたことを後悔させてやるからな」
「随分と自惚れてやがるな。ゲームでだけ強いヤツが『この俺相手に』だと? あンた程度、別にどうって事ねぇよ。もうちょっと腕を磨いてからくるんだな」
実際綺麗に理牌しないと打てず、追い込まれると落ち着きの無くなる筒井では、和弥からすれば『相手ではない』という感じだろう。
「腕を磨いて、ね……」
と呟いたきり、筒井は口を閉ざした。てっきりくってかかるものだとばかり、その場の人間は思っていたが。いざとなったら止めるつもりだった麗美も、いささか拍子抜けの様子だ。
「まあまあ! 仲良くやろうよ仲良く! じゃあ気を取り直して、始めよっか!」
そんな空気の中、綾乃がそう言って場を仕切り直した。
「いや、俺はもういい。少し休ませてくれ」
そう言うと和弥は、後ろの椅子に座ってしまう。
「……委員長が相手してやれよ」
「え、えぇっ!? 私が!?」
和弥に“指名”された小百合は大慌てだ。和弥には全く歯が立たないとはいえ、団体戦では筒井に苦汁を飲まされた経験が蘇る。同時にリベンジのチャンスをもらったワケだが、今の自分がどれだけ筒井に立ち向かえるのか。
恐怖心と闘志が、同時に沸き立ってきた小百合であった。
少々考えていた小百合だったが、すくっと立ち上がり、和弥が座っていた椅子に座る。
「よろしくお願いします」
一礼をした途端に筒井の顔がニンマリと笑っているのが、その場の全員に分かった。
「君がかあ……。俺に勝てるかい?」
「やってみなければ分からないでしょう」
急にニヤつき始めた筒井の表情からして、明らかに舐められているのが小百合にも分かった。
(その余裕の表情……私を舐めたことを後悔させてあげるわっ!!)




