第244話:ギリギリ
「はい」
二階堂に6,000点を払い、お釣りに200点をもらう和弥。
(いきなり5,800点の出費か。だが気にすることはない)
そう、自分はミスをした訳ではない。但しモニター室から見ていた麗美の評価は真逆だったが。
「高い手聴牌したところでズドン。間が悪いね…」
その時である。
「お嬢、ご友人が…」
「ああ、私が連絡したの。ここに通してあげて」
麗美の一言で、一旦引き下がった黒服の男は綾乃と恵を連れてきた。
「こんちゃ、ハナちゃん。竜ヶ崎くんが打ってるって本当?」
綾乃が興味深そうにモニターを眺める。
「そんなことでウソついてどうするの…。3回戦終わってトップ、最下位、3位。今モニター拡大するね」
苦笑いしながら、麗美はモニターを操作した。
あれやこれやと麗美と掛け合う綾乃。恵は食い入るようにモニターを見ている。
南入したと同時に、状況は一変した。トップだった二階堂の強運が他の3人に分散されたかのように、配牌がガラリと変わったのだ。
特に龍子の変化が顕著であった。ドラの五索含みの七対子の一向聴という配牌をもらい、それをわずか3巡目で聴牌させた。
待ちは仮テンと思われる四索単騎だったが、次巡に一枚切れの發を持ってきたので、すぐに変えられるように。
しかし龍子は待ちを変えることなく、發をツモ切った。直後、八神が「ポン」の発声をする。龍子の手牌ばかりを見ていたので気づかなかったが、八神は二連続で發を引いて対子にしていたようだ。
2,600のテンパイ。もしも北が鳴ければ九索を雀頭に切り替えて3,900にすることもできる。
「巡目が巡目なので、九索の大明槓も───いや、流石にないか」
誰に聞かれるまでもなく、恵がポツリとつぶやく。現状ラスなので無理をしてでも前に出るという選択も悪くはないが、八神は極力そういう素人のような無理をしない打ち手だ。發ポンの3,900を最大として考えているハズである。
同巡、和弥も聴牌を入れた。
リーチはかけず。安目7,700、高目ハネ満のダマテンだ。
こうなると一番早く聴牌を入れた龍子が不利になってしまったと言える。四索は残り一枚しかないということに加え、もう待ちを変えることもできない。必ず単騎待ちという七対子の弱点と言える。
龍子も2人の聴牌を察知したのか、それぞれの捨て牌を注視するように見ながらツモ山に手を伸ばした。
運悪く引いてしまったのは四筒。切れば当然アウトなので、これで聴牌を崩さざるを得なくなった。ひとまず場に一枚出ている中を落としていくのが安全策か。
龍子は八神の捨て牌をじっと見つめたあと、八萬を選んで河に打ち出した。
「たしかにどちらの当たり牌でもなく、捨て牌を見てみても危険なようには見えないけど…中切りのほうがより安全じゃないの…?」
綾乃の疑問はもっともである。
なお、配牌時点で二歩も三歩も遅れてしまっている二階堂は、ここにきてようやく一向聴の形。しかし受け入れが両方とも愚形なことに加え、片方のカン四筒は既に純カラとなっているので、聴牌したとしてもこのままではアガれないという状況だった。彼にとって、非常にまずい展開になってしまっているというワケである。
一周が回り、和弥のツモ番───東。ツモ切り。続く二階堂も、白をツモ切り。
そして龍子のツモが、七筒だった。
(これも切れない……八神さんにあたる)
配牌の良さや聴牌した巡目を見て好調だと思えたが、こうも連続して当たり牌を引いてしまうとは、逆に彼女の牌勢は芳しくないものなのかもしれない。ともかく、前巡と同じくまた八萬を河に並べる。
和弥か八神がツモアガリを決めてこの局は決着か───モニター室の3人がそう思った直後、事は起きた。次巡に和弥がツモ切った中を、龍子が仕掛けたのだ。
たしかに一向聴にはなる。しかし前に進むためには、危険な筒子と索子を一枚ずつ勝負する必要がある。ましてや索子のほうはドラ表示牌かドラそのものという選択だ。
龍子は八神の捨て牌を見つめながら、五筒をパシンッと切った。対局中は滅多に表情を変えない八神が、その切られた五筒を見て微かに目を細めた。
「よくあんなところが切れるな〜」
麗美が感嘆したのも束の間、事態はさらなる激動を見せる。次巡に二階堂が六筒をツモ切り、龍子が今度はノータイムで五・七筒のカンチャンを倒し「チー」の発声を入れた。
これで聴牌───だが、どれを切る?
「この形ならドラを残して四索切りかな…」
綾乃が呟くが、しかし龍子は一切迷うことなく、選んだのはドラ切りだった。八神がニヤリと笑う。
「へぇ……」
「通りますよね?」
「イエス、大通りだ」
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