第242話:ブラフ
(九筒の次は自風か。案外役牌のみだったりしてな)
和弥はそんな予想をするが、勿論龍子の仕掛けで手を曲げる訳にはいかない。
(俺は不要牌を切る。それだけだ)
いつものように、愚直に、牌効率に忠実に麻雀を打っていく和弥。
(聴牌取れずか…)
和弥はもう一度、龍子の副露を確認する。
(先生に気分良く打たれたら勝ち目はない!)
手の内から叩いたのは、ドラの九萬である。
別にラス目な訳ではない。しかし和弥はもっとも苦しいように思えるが、現在親という強力な権利を持っている。それを考慮すると、龍子の鼻っ柱は抑えておきたい。
というより───二階堂と八神の実力が未知数とはいえ、もっとも安心できないのが龍子なのだ。だから。彼女にとっての理想は自分の親番で高い手を作り、3人の誰かから打ち取ってその時点で終了というコースである。
だからこそ放銃のリスクは高まろうと前に出て。どこまで押し切れるか───がこの半荘のテーマになるのだ。
龍子が2副露した以外は、場が落ち着いたものになっていた。
しかし一方の龍子も、和弥のドラ切りに心のアラートを鳴らす。
(まさか…またダマテンか)
今一度、自分の手を確認する龍子。
(聴牌だとしたら……萬子はもう現物以外切れないな)
ツモった牌は七萬だ。龍子は引いてきた七萬を手牌の端にくっつけ、そのままの姿勢でしばらく手牌を見下ろしていた。
やがて字牌の対子に手をかけ、そちらを切る。
(オリたな…)
一度でも疑い始めたら、疑心暗鬼はもう止まらない。
葛藤の末に龍子が選んだのは、字牌の対子落としで回る、という選択であった。
内心ホッとする和弥。
引いてきたのは六索。ここで八索を雀頭にするのを諦め、678の順子に変更する。
(手変わり…まだ聴牌してなかったのかっ!?)
しかもオリなければ八索は龍子はこの形で和了れていた。
モニター室で対局を見ていた麗美も、足を組み替えながら思わず呟く。
「色々やるねぇ〜あの子。無敵の龍が和了りを逃しちゃったよ」
11巡目。
五筒に赤が重なり、雀頭に。
「じゃあ今度はリーチだ」
和弥が四筒を横に曲げリーチ棒を置くと、『リーチデス』という女性の電子音が響く。
(色々やってくれるな竜ヶ崎…。あのドラは私を脅すために打ったってことか…)
13巡目。
「ツモ」
和弥はツモった牌をカタリ、と横に置く。
「メンタンピン・ツモ・イーペーコー・赤。6,000オール」
(やれやれ…酷いことになったな)
点棒入れから6,000点を出し、和弥に渡す龍子。
(先生相手にセーフティーリードはない。いけるとこまでトコトンいくぜ)
受け取った点棒をしまいながら、心に誓う和弥だった。




