第241話:仕掛け
和弥は無意識のうちにぎゅっと手を握り締めていた。
「どうした竜ヶ崎。早く座れよ」
挑発気味に龍子が手招きをする。
ふいに和弥は対局したい、という覚悟がふつふつと湧き上がってきた。
今度は自分が役満を和了り返してやる、そんな気持ちを抑えきれなくなってきたのだ。
(高レートでこんな気持ちになるのは、久々だな……)
「それじゃあ、先生の望み通り対面に座ってやるよ」
「……ここ数日死んだ魚のような目をしていたが。今はランランと輝いてるじゃないか」
和弥は眉をひそめた。恐怖心と対極に位置すると言える感情に、心の昂りを隠し切れない。とはいえ龍子の態度は、若干シャクに触る。
「キミは無謀な勝負をするような打ち手じゃない、賢い男だと思っていたんだがね」
「挑発しといてそりゃあないだろう」
「挑発なんてしてはいないよ。新一さんもどんな勝負にも逃げなかったしな」
不敵な笑みに満ちた龍子の発言。
「なんだい、この坊やは龍子ちゃんの知り合いかい?」
「まあ龍子ちゃんは顔が広いからな」
「以前話した竜ヶ崎新一さんの息子ですよ。結構打てるからお二人も気を付けた方がいいですよ」
そんな会話の中、対局がスタートした。
前回とは違い今回は裏ドラも赤もあるアリアリルール。
東1局。8巡目
和弥が早くも聴牌。タンピン・赤1と値段はそこまで高くないが、待ちが場に安い筒子の三・六筒になっている点は強みと言える。
2巡後に、和弥が六筒をツモり上げた。
「ツモ。1,300・2,600」
「ほう。この巡目でそんな手が入るのか」
八神は点棒入れを開ける。
「それにしても、手替わりのない最終形じゃないか。普段のようにリーチにはいかないのか」
点棒を払いながら、また不敵に笑う龍子。
「別に。たまに違うこともやってみるのもいいと思ってね」
(なんとでも言え…。東パツの5,200がアドバンテージなんて俺も思っちゃいない…)
そう言いながらも、龍子のプレッシャーに自分が“ビビってる”のを感じている和弥である。
東2局。八神がまず、二索を切り出した。
そして和弥は字牌から切り出して行く。その後二階堂が少しだけ逡巡して───打『南』で始まった。
2巡目、親の手番になり八神が切り出したのは九筒だった。
「ポン」
すかさず龍子がその九筒を鳴き、これで1副露目である。
(おいおい……高い手を作る気でいるのか)
そんな龍子の打ち筋を見て少し呆れる和弥。しかし───
(まあ、まだ2巡目だしな)
和弥はそう考え、様子を見ることにした。
続く二階堂が切った牌は『西』、そして龍子はまたしてもその西を鳴く。
「ポン」
(チィ…組んでるんじゃないのかこいつら…)
和弥は自分がイラついてるのがハッキリと自覚出来た。




