第21話:真打登場
「ロン」
「何っ!?」
筒井は驚きの余り、半分立ち上がる。
「リーチ・七対子」
裏ドラをめくる和弥。表示牌は三萬だった。
「裏はありません。3,200です。終了ですね。600点差ですが逆転トップです」
結局3回戦目も勝てなかった筒井は、がっくりとうなだれる。
東場も南場も親番を早々と失ったのでは勝負するしかなかったが、こういう時に限ってアタリ牌を掴むものだ。
(平和・イーペーコー目指してたせいで、捨て牌もあんまりチートイっぽく見えなかったのが良かったな。
最初からチートイ目指していたら、絶対出なかった西だ)
「くそ、4回戦目いくぞ………」
筒井は覇気無く、呟くように懇願した。
対戦前の自信満々な態度は、最早どこにも見当たらない。
一方、普段から「鳳凰荘最強プレイヤーの一人・クリーンかりんとう」と公言している筒井のこの姿に、今日子は内心落胆していた。
「ごめん、私ラストにさせて」
「俺もだ。竜ヶ崎くんだっけ? 強いな。正直見くびってたよ」
同卓していた久我崎の部員2名は、筒井を残して席を立った。
「とんでもない。今日はたまたまです。ありがとうございました」
本当なら「お前ら程度に負けるかよ」と言いたかったが、立川南の他の部員の顔に泥を塗る訳にもいかない。上っ面だけでも謙虚さは見せた方がいい。
そう思い立ち上がろうとした瞬間だった。
「やるじゃん。さすが新一さんの息子」
パチパチとワザとらしく手を叩きながら、麗美が近づいてきた。
「そりゃどうも」
麗美が美少女かそうでないか、と聞かれたら、間違いなく前者だろう。しかし───その笑顔に綾乃とはまた違う不敵さを感じた。
(…何故、久我崎の部長が…オヤジの事を知っているんだ?)
3年という事は自分より一つ上なだけの年齢だ。和弥はすぐに警戒する。
「次は私も入っていいかな?」
「いいですけど。ちょっと数分休みもらえます?」
立ち上がって腰を伸ばす動作をする和弥。
「私は空いた席でいいかな」
「別に。お好きにどうぞ」
筒井は和弥の対面にまま。和弥の上家には麗美が座る。
「あと一人。誰か入る?」
「あ、あたしでいいですか?」
声の主は今日子だった。
「ちょっと北条さん!?」
明らかに筒井の味方をしようという態度に、さすがに小百合も声を荒げる。
「いいんだよ委員長。気にすんな。入ったところでそんなに変わらねぇから」
一体どっちの味方なのか。そう言いかけた小百合だが、和弥は平然としたままだ。
「まあまあ小百合ちゃんも。竜ヶ崎くん本人がそう言ってるんだし、このままでいいんじゃん」
綾乃も小百合を止める。勿論龍子も今日子を諫める事はせず、逆に興味を持ってこの成り行きを見ていた。
(こういうところは新一さんそっくりだな……。金を賭けてる訳じゃないとはいえ、この逆境で一体どれだけやれるのか………楽しみだな)
「私がサイコロ振って構わない?」
誰も反対しなかったので、麗美がサイコロボックスのスイッチを押す。結局和弥の起家でスタートとなった。
東1局。ドラは四萬。いきなり好配牌が入る。
(凄い………最初からドラが暗刻でっ!?)
後ろで“見学”していた小百合も、配牌でドラの暗刻が完成した事に驚いた。すかさず九筒を切る和弥。
続いてツモったのは八索だった。今度は躊躇なくダブ東を切る。そして八筒をツモり、早くも聴牌。
(よし……カンチャンだしここままずダマだな)
ドラ表示牌の三萬を切り、ダマテンにとる。しかし、和弥の捨て牌を───
上家に座っている麗美が、執拗にチェックしていた。
(そういえば白河先輩の友達だったなこの女………。
この女が来てから久我崎は強くなったそうだし。手つきだけ見ると明らかに麻雀初心者ではなさそうだが)
同時に和弥も、麗美に対してのチェックは忘れていなかった。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!