第237話:新入部員
「貴方が麻雀部に入ってから、色々あったわよね」
小百合が思い出したように、そんな事を言い始める。
「ああ……」
和弥もそれに応じた。
「5月に入部したのに、もうインターハイ予選も本大会もあっという間だったわね」
「ホントだよな」
(お前が泣きついてきた時はどうなるかと思ったけど)
などと言いそうになったが、さすがに無粋なのでやめることにした。
そんな時───
ガラッ……
部室のドアが開き、綾乃が入ってきたのだった。
「あ! やっぱり2人とも来てたんだ!」
そう言って綾乃は笑顔になった。
「どこ行ってたんだよ、先輩」
クシで髪を整えながら、和弥や綾乃に不満をぶつける。
「ごめんごめん。ちょっと部長会議があってさ」
綾乃はそう言うと、和弥の隣に座った。
「で? 2人は何の話をしてたの?」
「別に。俺が麻雀部に入ってから色々あったなって話してたとこだ」
「そうね。特にこの3ヶ月は本当に濃かったわ」
小百合もそれに同意する。そして───
「これで新入部員が入ってきたら、私も安心して引退出来るし」
綾乃がそう言った時だった。
コンコン───ガチャッ……
ノックの音がして部室の扉が開く。そこには───
「失礼します。あ、先輩達やっぱりいたんですね」
そこにいたのは紗枝だった。
和弥は無言の紗枝を訝し気な目で見た。
「中野さん? どうしたの?」
小百合が尋ねる。すると───
「あの……。私のクラスメイトが、麻雀部に入りたいそうで……」
「え!?」
3人の声が揃った。しかし綾乃だけは即座に違う反応を示す。
「なんだ紗枝ちゃんのクラスメイトもか! 大歓迎だよすぐに連れてきて!」
(中野のクラスメイト……?)
そんな疑問を心に浮かべる和弥をよそに、綾乃と紗枝の会話が続く。
「いえ、実はもう連れてきてるんです…」
「え?」
(もう連れてきてる?)
そんな和弥の疑問は、すぐに解消された。
「失礼します……」
紗枝がそう言って横にどくと───そこには1年生の女子が立っていたのだった。
「あ、あの……私、麻雀部に入部したいんですけど」
その少女は少しおどおどした感じでそう切り出した。
「……」
3人が黙って少女を見る。しかし───
「え、えっと……」
その少女も沈黙に耐えられなくなったのか、少しおどおどし出した。
「あ、ああ。中野の言ってた入部希望か」
和弥がそう切り出した。すると───
「はい! 私……麻雀は全然分からないんですけど、でも興味があって……!」
そんな答えが返ってきた。そして綾乃がそれに反応する。
「うん! ルールとか分からなくても大歓迎だよ!」
しかしそんな綾乃に小百合が言う。
「ちょっと待ってください部長。私の時は『麻雀のルールを知っているのが入部条件』だったはずですよ?」
「あんま厳しいこと言いっこなし。それがこの部の入部希望者の枠を狭めてたんだし」
(自分で『少数精鋭、麻雀のルール知ってる人限定』とか言ってたくせに…)
内心呆れる小百合であった。
「で、どう? 入部してくれる?」
綾乃が少女にそう尋ねる。
「はい! よろしくお願いします!」
少女は笑顔でそう言ったのだった。
そして───
「じゃー今日は新入部員の歓迎会ってことで、皆でどこか食べに行こうよ! 私が全部おごるから!」
綾乃がそんな事を言い出したのである。しかし───
(おいおい、まだ仮入部だろ)
そんな和弥の心の声は、当然誰にも届かなかった。
「じゃあどこに行きますか? 私いい店知ってますけど」
紗枝も乗り気なようでそう言い出すのだった。