第233話:兄との対決
和弥は驚きのあまりしばし沈黙する。
「……久しぶりだな」
やっとの思いでその一言を絞り出す。
「そうだな」
そんな和弥と治を交互に見ながら秀夫が言った。
「知り合いだったのかい?」
「ええ。大会で対局した女の兄ですよ」
物々しい空気に、一瞬紅帝楼の店内が静まり返る。
「で、今日はどうした?」
和弥がそう尋ねると、治はこう返す。
「ちょっとな。お前と麻雀を打ちたいんだ」
「麻雀を?」
和弥は驚いた表情をした。しかし───
「いいぜ」
すぐにその表情は笑みに変わる。
「よし、話は決まったな。さっさと卓に着きな」
粗暴な口調で和弥にそう言ったのは、真っ赤に染められたいかつい体格に表情の治。顔立ちや体格から見るに、和弥と一歳違いとは思えない彼は高圧的な態度で「早くしろ」と続けてきた。
「急かすなよ。妹も妹なら兄も兄だな」
「勝負は半荘3回戦。半荘が終わった時点で点棒が100点でも多い方が勝ち。いいな?」
「一方的だな。別にそれでもいいが」
「よし、早速打とうぜ」
きっ、と睨みつけてくる治。
───正直、和弥も燃えてきた。高レートじゃないのに、この胸の高揚は一体なんだろう。
和弥は“上等だ”と言わんばかりに卓に着いた。妹の敵討ちに来たのか知らないが、俄然やる気が出てきた。
「お兄さんたち。燃えるのは構わないけどこの卓1,000点100円だぞ。いいのかい?」
「構いませんよテンピンで」
「よっしゃ、話は決まりだな」
治は和弥の対面に座った。
東1局。和弥は北家である。
9巡目。
「リーチ」
いきなり治のリーチが入った。
(チ…早速来たか)
何か和了られそうな予感がするが、そういう予感というのは得てして良く当たるものだ。
次巡。
「ツモ」
リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・赤。
「裏は…っと」
指でコロリとドラ表の下をめくる治。裏ドラ表示牌が六筒だったので、ハネ満である。
「3,000・6,000」
(コイツ……)
以前和弥のアタリ牌を、ズバズバと言い当てたのを思い出した。
(そうだった…。見かけはゴツイが麻雀は繊細だった)
「おい。不思議そうな顔してねぇで、さっさと点棒をくれよ」
和弥私に向かって右手を差し出しながら、治が言った。
「ほらよ。ツリくれ」
治に対し、5,000点棒を差し出す和弥である。
東2局、その治の親。
ドラが東。
和弥の配牌はガタガタである。
(チ……気持ちよくハネ満和了らせたのがまずかったかな)
治の第一打が西であったが、この配牌で仕掛けるワケもいくまい。スルーして、第一ツモへ。
───赤五筒である。
どんな配牌だろうとツモ次第で化ける。それが麻雀だ。和弥は出来るだけポジティブに前向きに、字牌の整理から始めた。
バラけている字牌を整理し終えるのに8巡かかったが、手牌の進行具合は悪くなかった。
(ここまで育ってくれれば、もう西を叩いてもいいだろう…)
そう思った直後、上家から西が切り出された。
和弥はすかさずポンして七筒切り。
次巡、またも上家から今度は八索が出たのでこれもチーし、三・六萬待ち2,000点のテンパイを入れることができた。値段は安いが、あの配牌から考えてみればかなり上等な展開といえるだろう。
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