第231話:気持ちの整理
「和弥くん!」
帰ろうと学校玄関の下駄箱に行くと、後ろから声をかけたのは小百合だった。
「委員長か」
学校内では小百合呼びする勇気はない和弥。そればかりかあれだけ下に見てた今日子を相手に親倍を和了られ、3位で終了である。
東1局から配牌もツモもチグハグだったので苦戦は予想してはいたが、紅帝楼でも高レート麻雀でも負け知らずだっただけに、いささか堪えた。
学校を出た時点でようやく気持ちの整理がつき、和弥は思わず小百合に言った。
「自分が情けないぜ……。白河先輩とかはともかく、まさか北条にやられるとはな」
「そんなことはないわ。南4局の北条さんの配牌は純チャン三色以外考えられなかったし」
「……」
小百合なりに気を遣ってるつもりなのだろう。
「……それよりも。2人きりなのだから小百合って呼んでくれない?」
「わ、分かったよ。小百合」
「なあに? 和弥くんっ」
「…………」
思わず黙り込んだ和弥である。
(このコ……。本当にあの委員長かよ)
少なくとも自分が知ってる学校での西浦小百合は、こんな感じではなかった筈だ。
「……でさ、何か言いたい事でもありそうだな?」
「あ! そうだ!」
小百合の表情がいつもの“クールビューティー”に戻る。
「麻雀部、どうする気? 本当に続けてくれるの?」
ああそう言えばそんなことも言っていたなと思い出す。
「ああ。あと2名部員が見つかるまでは続けてやるよ」
「そう。良かった」
小百合がホッとした表情を浮かべる。そしてこう続ける。
「……でも和弥くん、『麻雀で生活費を稼ぐ』って本気なの?」
(やっぱりそこ聞いてくるか……)
和弥は心の中でそう思った。
「まあな。俺みたいなガキに出来るバイトなんて限られてるし。どうせこの学校卒業したら、秀夫さんの会社で名ばかりの社員やろうと思ってたとこだ」
「それはそうだけど……」
「それにさ、俺はこの学校じゃ『落ちこぼれ』だ。今から将来の予行演習はしておいていいだろ」
「……」
小百合は何か言いたげだったが、そのまま和弥は続ける。
「ま、『落ちこぼれ』が『麻雀で生活費を稼ぐ』ってのも、なかなか面白いだろ?」
「……和弥くん」
「ん?」
「その……」
小百合は何か言いたげだ。しかし───
「……悪い。今日は疲れた。話の続きは明日にしてくれ」
和弥はそう切り上げたのだった。
───麻雀で生活費を稼ぐ。それを決めた時の和弥の気持ちは、やはり『ワクワク』していたのである。
そのワクワクが、どこかに消えているのは事実だった。
和弥は「また明日な」と言って、小百合に別れの挨拶をした。
翌日も変わらない朝が来た。
学校に行き、授業を受ける。
そんな代わり映えのない一日を過ごした後───
和弥は学校近くのカフェテラスにいた。ここも秀夫がオーナーをしている店で、高レート麻雀関係の密談に使われる店でもある。
「どうしたんだい和弥くん。随分浮かない顔をしてるね」
高レートの場立ての話に気の抜けたような表情をしている和弥に、秀夫も驚いた様子だった。
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