第229話:不思議でも何でもない
「随分若いお兄さんだ。麗美ちゃんと変わらないくらいかい?」
「タネ銭はあるんだろうな?」
中年たちの質問に和弥は何も言わず、コーナーにまず300万を積み上げた。
「ほらよ。この卓のレートは?」
「……1,000点20,000円、2-6のアリアリだ」
「了解」
「あとこの卓はワンチップ3万だがいいかい?」
「どちらでも」
和弥中央のサイコロスイッチを押し、牌山を上げた。
今更チップルールを持ち出されても和弥の心構えは変わらない。あくまでも勝つつもりでここに来たのだ。
(変則ルールじゃない限りレートは関係ない。全力で行くだけだ)
和弥は、いつもと同じように牌山から牌を取っていく。
東1局。
(金はあるようだが…少しこのガキを試してやるか)
8巡目、ドラは白。親番の中年はふとイタズラ心に火が点いて、こんな仕掛けをしていた。
彼は萬子を一枚も切っていないので、ストレートに読めば萬子の混一色に見える仕掛けだろう。
そして、和弥の捨て牌には索子が安かった。この待ちなら、和弥から出ることも十分にあり得るだろう。中年は一矢報いるつもりで和弥からの放銃を心待ちにしていた。
───しかし、和弥は次々と怖いハズである萬子を切り出してきた。さらに3巡後、和弥は九索を切ってリーチまでかけてきた。中年は途端に焦燥感に襲われる。
やがて12巡目。和弥は静かに牌を置いた。
「メンタンピン・ツモ・赤。2,000・4,000」
親っ被りをくらった中年は渋々4,000点を和弥に払う。
会心の待ちをかわされた中年は内心面白くなかったが、しかし和弥が和了れたのは偶然でも何でもない。
(おっさん、七索捨てる時一瞬迷ったろ。七索と白のシャボ、片アガリの白ドラ3を考えちまったんだろ? あの時点で萬子のホンイツじゃないと確信したよ)
胴元部屋の監視モニターで見ていた麗美も、クスリと笑う。
「ここの客でも、彼は止められないね」
麻雀はメンタルのゲーム。精神的に沈んでしまえば、再び浮上するのは難しい。
「ウチで打つ客ならどうかなと思ったけど…あの麻雀マシーンはやっぱ私あたりじゃないと無理か」
結局変則チップ卓はその後も和弥が勝ちまくり、早い時間での卓割れとなってしまった。
花澤組の組員たちは苦々しい表情を浮かべるが、麗美だけは上機嫌である。
「…みんなご機嫌ナナメみたいだけどさ。彼は私の客よ? 別にマナー違反してるワケでもなきゃ、サマ使ってるワケでもない。手出しは許さないからね?」
「し、しかしお嬢…」
「しかしもモヤシもないって。いいから私の言う通りにして」
「わ、分かりやした……」
少し語気を強めた麗美に、組員たちも黙り込む。
(明日みんなに教えてやろ。彼とガチ勝負出来る場を立てるって)
再びクスリと笑う麗美であった。
不定期連載ですがブクマ、☆5つもらえると作者のやる気がアップして更新早くなるかも知れません。