第228話:第一歩
まるで普通の雀荘のような空気の賭場。真っ先に浮かんだイメージはそれであった。───それが余計にこの賭場のイメージを恐怖をプラスしているが、和弥はそんな微妙な空気も気にせず店内へと入っていく。
驚くことに、8卓全てが埋まっていた。待ち合いのソファーにも3人が腰かけており、文字通りの大盛況である。イメージ的にはまさに紅帝楼と変わらない。
「やあ、しばらくだったね。今日は打ち子としてじゃなく、一人の雀士として向かわせてもらうよ」
早くもやる気満々の麗美であるが、和弥がここに来た理由は麗美と打ちたいからではない。
「こんばんは。別にあンたと打つ為に来たワケじゃないんだがな」
「ツレないなー。こっちはやる気満々なのに」
麗美はそう言って、陽気に笑ってみせた。
「とにかく、今日は空き卓でいいぜ」
面倒くさそうに答える和弥である。
(本音を言えば、この店の客のレベルがどんなもんか知りたいしな)
「ええー…。ブーブー。キミがこの賭場に来るって、皆に伝えたのに…」
「…賭場の打ち手ならセキュリティー意識は高く持てよ…」
「ま、とりあえずそこ座って待ってて。あ、せっかくだから一杯くらい飲む?」
「あのな、俺未成年なんで……」
「ヘンなとこに真面目ね。賭博麻雀はやってるクセに。でもまぁ、強制はしないわ」
おどけて見せる麗美である。
「ヘイヘイ……」
せめて何かサンドウィッチでも食べようかと、メニューを手に取った。
高レートの場だからと、別に緊張などしない。元々秀夫の店でも高レートは経験済みだ。
しかしなぜか今回は違う。何かジリジリとした緊張感がある。
メニューを見たところで当然内容が入ってくるハズもなく、和弥はしばらくの間そのままの体勢で固まっていた。すると、突然脇腹に軽い衝撃が走った。
「なにやってんのよ。早く頼みなさいな」
「あ、ああ……悪かったな」
どうやら麗美に指で突かれたようだ。相変わらず食えない一面を見せる。
和弥は店員を呼んで、サンドウィッチとカフェ・オレの砂糖抜きを頼んだ。
「それで───」
麗美が話を切り出した。
「ここ、一晩で500万負けても何とも思わない連中が来る場所だけど。大丈夫?」
「とりあえず。タネ銭はこれだけ持ってきた」
「?」
リュックに入った1,000万を、和弥は麗美に見せる。
麗美はしばらく、リュックの中を物珍しそうに見つめていた。
「ギャンブル中毒って訳じゃないのに、変わった子だねキミは」
「だろうな。パチンコや競馬なんてやりたいとも思わないし。やはり競技よりはこういう麻雀が俺には合っている」
「あ、これウチのルール表。普通の赤入りルールと偶然要素を排除した完全競技ルールの二つあるけどどっちにする?」
「今回は普通に赤入りで打つか」
ルール表を読んで数分経ったその時だった。
「お嬢。7卓に空きが出ました」
店員の一人が言う。
「あっと。早速入ってみる?」
「ああ」
空いた席に座る和弥。
(負け席は冷えてそうだが…。ハンデだと思えば丁度いい)