第20話:撃破
「め、珍しいわね、放銃率の低いグリかりさんが振り込むなんて……」
「まあな。こんな愚形とは思わなかった。これからさ」
今日子が目いっぱいのフォローをし、筒井も強がるが会話を聞いてた和弥は勝利を確信する。
(なるほど。3位になっても『振り込まなかったことを自慢したがる』タイプか)
東2局。
「ツモ。混一色・發。2,000オール」
和弥の下家が、ホンイツをツモアガリした。
「よし。これで俺が暫定トップだな」
「チ………ちょっとは先輩に気を使えよな」
先ほど和弥に5,200を振り込んだ天上位の筒井は、渋い顔をしている。
「ロン。平和のみ。一本場で1,300」
(これで残り17,800………。完全に最下位候補となったこいつに、ここで一撃を与えれば有利になる)
下家を直撃し親になった和弥はそう思いながら、サイコロボックスのスイッチを押した。
東3局。ドラは六萬。
6巡目───
「リーチ」
浮いている以上、もう遠慮する事はない。和弥は得意のリーチ攻めに入る。
「また棒攻めかいお兄さん」
沈んだままのラスの筒井が、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、安全牌の字牌を切った。
「ちょっと早すぎて読めませんか? でもテンパったんだから仕方ないでしょう」
筒井の煽りも平然と返す和弥。
(どうせまた聴牌即の愚形タコリーだろ………。この手を和了れば、俺にも浮上の目はある)
沈んでいる筒井としては、まだ東場とはいえここは挽回に行きたい。今度は捨て牌も何も無視して、ニ筒を切って聴牌にとる。
「追っかけリーチだ!」
「ロン」
「え?」
ゆっくりと和弥は手牌を倒した。
「メンタンピン・イーぺーコー・ドラ1」
イーペーコーの高目と分かった筒井は、見る見る青ざめた。
裏ドラをめくる和弥。表示牌は五索である。
「………裏も一丁。18,000です。対面さんが飛んで終了ですね」
1回戦目は和弥のダントツトップだった。3人は呆然とした状態で、文字通り固まってしまっている。特に筒井はショックで声も出ないようにも見える。
こんな筒井の姿は見た事ないのだろう。対局を終えた今日子も茫然としていた。
(ハダカデバネズミも両脇も、俺の事を完全に素人だと思っていたんだろうな)
短ランを脱ぎ、椅子にかける和弥。
(読み間違えると色々余計な事を考えるようになる。麻雀は余計な事を考え出した奴から勝手に負けていくゲームだ。
ましてやネット麻雀には慣れてるが、金を賭けた事は無いコイツみたいな奴ほど『ラスさえ回避出来ればいい』って考えが染みついちまってる。
この茶髪ハダカデバネズミは、もうノーテンリーチでもベタオリのバラ打ちに徹するはずだ)
今日のトレマの終了まで打っても、完全に筒井はラス候補のままだろう。
「この卓終了しましたけど。どうします?」
ワザとらしく手を挙げ、綾乃と麗美に確認する和弥。
「お、おいおい。まだまだこれからだぜ。な、なあ皆?」
今日子や他の部員達の手前、このままでは面子が立たないのだろう。
筒井は即再戦を申し出た。
「も、勿論! ウォーミングアップですよこんなの」
下家の後輩も白々しく賛成し、筒井の和弥の顔色を窺っているのが分かった。
「そうですか。じゃあ行きましょう」
1回戦目のトップだった和弥は、平然とサイコロボックスのスタートボタンを押した。
2回戦目。今度は和弥が起家である。今度はドラは一筒。
「ツモ! 西・ドラ1の500・1,000」
ダブ東・ドラ・赤のイーシャンテンだった和弥だが、惜しくも筒井に蹴られてしまった。
(さっきは一度も鳴かなかったハダカデバネズミが………。飛行機と麻雀はアガってナンボだしまぁ正解だが。
でも再戦申し出たこいつらの方が、遥かに焦りを感じてるな)
『麻雀は先にブレた奴が自滅してくれる』
父・新一と秀夫に散々言われた言葉を、和弥は心の中で噛み締める。
(和了れなかった手を悔やんでもしゃーない。次に集中するか)
東2局。
親かぶりを食らった和弥が、今度は北家でスタート。ドラは北だが手元には来なかった。
8巡目。
(とりあえずさっきの1,000点を返してもらうためにも、ここは五筒切りだな。
赤が2枚あるし、中をポンしての3,900が最速だ。ただ、ここまで出ないとモチモチの可能性もあるな………。
もし索子の三面張が先に入ったらその時は仕方ない、中と五萬のシャボリーだ)
躊躇なく五筒を切る和弥。
(筒子の周りを引いたら、その時はもう中切り………)
と思った矢先、ツモったのは六筒だった。
(六筒か………生牌だが勝負だ!)
和弥は中の対子落としの覚悟を決めた。
「ポン!」
何がなんでも勝ちたい筒井が、堪えきれないように中を鳴く。やはりモチモチだったようだ。
しかし、牌勢のない打ち手が無理に動くと、勢いのある人間に優位に働くのは麻雀の常である。
ツモ順がズレた和弥がツモったのは、案の定八索だった。
「リーチ」
残った中を切ってリーチにいく和弥。
「くそ………。モチモチだったのかよ」
一手遅れとなった筒井は、苦々しい表情で呟く。───2巡後。
「ツモ」
「メンタンピン・ツモ・赤2で3,000・6,000」
(タンピン系ばかりでつまんねぇ麻雀だと笑うなら笑えよ………。何を言われようが俺は『俺の麻雀』を打ち切る)
点棒を回収した和弥は、点棒収容引き出しにしまい込んだ。
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