第224話:相手ではない
「ツモ」
和弥は静かに牌を置く。
「リー・ヅモ・面前清一色。4,000・8,000」
高目のイーペーコーのツモではなかったが、しかし結果は同じ倍満だ。
一回戦目は和弥のダントツトップに終わった。
まずは3,000万のトップである。
最初は和弥を明らかに舐めていた他家3人の表情が凍りつく。
(5連続トップで1億5000万か……。そこまではいかなくとも、最下位を食わない事が重要だな)
自分が打ってる訳ではないのに、小百合は得意満面であった。
「じゅ、10分間の休憩だ」
叔父が席を立つ。
「俺も。トイレ行ってくる」
「俺も」
3人が一斉に席を立った。
「和弥くん、ちょっといい?」
小百合が和弥に耳打ちをする。そしてそのまま2人は廊下へ出た。
(何か作戦会議か?)
和弥はそう考えた。
「和弥くん。私の家は麻雀でお金を稼ごうなんて思っていない」
「だろうな。俺が代打ち名乗ったから渋々乗った感じだし」
小百合は続ける。そして───
「だから……その……」
「ん?」
「勝ったお金は半分貴方にあげるわ」
きっぱりと言い切る小百合。
「いいのか? 別に俺、金目当てで来た訳じゃないぜ」
「いいの。お母さんなら多分文句言わないと思うし」
「……そうか。じゃあ俺は遠慮なく勝たせてもらうぜ」
「うん!」
2人はそのまま居間へと戻るのだった。
二回戦目が始まる。
「よーし、リーチだ!」
9巡目に上家の中年がリーチをかける。
(早いな。普通にタンピン系か)
和弥は捨て牌から、そう分析した。
「ポン!」
下家の中年が、切ったリーチ宣言牌の白の対子で鳴きを入れる。
そして7巡目に───
「ツモ! 白・ドラ1で1,000オール」
和弥はダマテンで待っていたかのように、牌を横倒しにした。
「ぐ……」
リーチをかけた男はリーチ棒も回収され、不満を隠そうともしない。
(焦った仕掛けだ。親だから安手でも連荘か…)
1,000点を渡したあと、ゆっくりと牌を収納口に落としていく和弥である。
(笑えるな。あれだけ馬鹿にしてた学生の競技麻雀の方がレベル高いとはな)
牌山から牌を取っていく和弥は、己の状況に乾いた笑いが出た。
東1局一本場。
和弥のミッションは、まず親の連荘を止めることである。
(いい配牌だ……)
「リーチ!」
和弥のリーチに場が静まり返った。
(一回戦目といい、このガキ…)
眉を吊り上げる中年達である。
「ツモ」
牌を置く和弥。
「メンピン・ツモ・ドラ・赤。2,100・4,100」
この局を制したのは和弥だった。
「さて、じゃあ次は俺の親か」
薄ら笑いを浮かべ、和弥が促す。
「それじゃあ遠慮なく……」
2巡目、3巡目、4巡目……和弥は順調に牌を絞り取っていく。
5巡目に上家が1枚切った時───
「ロン!」
和弥が手牌を倒す。
「七対子・ドラ2で9,600」
3人の表情が凍りつく。
(おいおい……)
(馬鹿な!?)
最近ヒューマンドラマ〔文芸〕の日間ランキングに33位だの36位だの入って嬉しい限りです。どなたが読んでいるのかは分かりませんが、本当にありがとうございます。