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第221話:財産争い

いつの間にか50,000PV、ありがとうございます。

不定期になりますが、連載を再開します。

 和弥はある大邸宅の玄関前に立っている。言うまでもなく、西浦邸の玄関前だ。


(フー、門構えだけでビビっちまうぜ)


 小百合の母である双葉が「どうしてもゆっくり話したい」そうで、小百合に時間を作ってもらえないかと懇願されたのだ。タクシー代も出すと言い始め、流石に和弥も断り切れなくなったという訳である。

 女中に客間に通されるも、和弥はまだ困惑していた。

 どんな表情をすればいいのか、皆目見当つかないからだ。


(やれやれ……聞きたい事は山ほどあるんだがな)


 そう、ここに来た目的はただ一つ。

 娘の小百合に代打ちを頼んだ件についてゆっくりと聞きたかったのだ。初対面の人間にいきなりそれを聞いていいのかどうかだが。

 隣の小百合も緊張した面持ちである。


「お待たせしました」


 ふすまが開き、小百合を大人にしたような和服の美女が笑って言った。双葉である。

 和弥は出された緑茶を一口飲んでから、無言であった。


「こんにちは和弥さん。私が貴方を呼んだ目的は……」


「俺もそれについて聞きたかったんです。娘に代打ち頼むような母親って一体何なんだって」


 いきなり攻撃的な和弥に、流石に双葉も面食らったようだ。


「……はっきり仰るんですね」


「遠回しに聞く必要もないでしょうが。そこまでして代打ちがいる麻雀勝負って」


「………」


「黙ってちゃ分かりませんよ」


 和弥も咄嗟に「言い過ぎたか」と思ったが、今更遅い。双葉は狼狽してるが、ここで引くつもりはない。

 結局わからず、和弥は双葉に視線で答えを求めた。


「……それについて、西浦家があの宮城の港町一帯を取り仕切ってる事から話さなくていけません」


「どうぞ」


「私の父は、元々西浦家の分家だったんです」


 何か本家だの分家だの、話が長くなりそうだが聞いたのは自分だ。

 そう言い聞かせ、和弥は我慢して話を聞く事にする。


「あの港町は当時はネット回線も満足に通っていなかった地域です。そんな場所の大人たちの娯楽は、酒を飲むか麻雀でした」


「………」


「あの地域では西浦家に意見出来る者は存在しません。逆らったら最後、仕事が無くなります。西浦の本家の客間は実質麻雀ルームでした」


 和弥は眉をひそめて双葉を見つめた。


「……続けて下さい」


「今から丁度20年前に起きた、西浦の超高レート麻雀。分家である私の家も、その麻雀に参加させられました」


 父・新一がなんでこんな資産家の女性に惚れられていたのがずっと疑問だったが、その疑問がうっすら晴れてきた和弥である。


「ひょっとして分家は代打ちを……?」


「はい。貴方のお父様である新一さんです」


「そっか……」


 思わず納得し姿勢を崩してしまい話の腰を折ってしまったので、客間に微妙な空気が充満した。


「ごめん、続けてください」


 頭をかきながら、和弥は続きを促す。


「……結果は貴方の想像通りです和弥さん。新一さんは本家が高レート麻雀を中断するまで、勝ち続けました」


 思っていた以上に、重い話だった。


(恐らくこの人はそれでオヤジに惚れたのか?)


 和弥の推測を、双葉の次の言葉が確信に変えた。


「新一さんは当時から───悪ぶってなんというか暴力的な人間ではあったけど、困っている人を見過ごせない性格でした。私の家を…」


「いや、事情は分かりました。それでなんでまた麻雀を?」


 何か惚気(のろけ)話になりそうなので、慌てて話を(さえぎ)る和弥である。


(本当にモテたんだなオヤジ、あンた…。息子としては複雑だぜ)


 秀夫から聞いてはいたが、やはり新一もそんなに早くから麻雀を打っていたのか。“人に歴史あり”とは良く言ったものだ。但し賭け麻雀で勝つということは、それだけ恨みを買うに等しい。新一が非業の死を遂げた一件でも明らかだ。


「先日、本家から連絡がありまして……」


(やっぱりか)


「どうしたのです?」


 和弥の視線に気付いたのだろう、双葉が訊いてきた。


「ひょっとして。またその本家とやらが高レート麻雀に誘っていると?」


「えぇ。和弥さんの想像通りです。本家は小百合が去年の大会で個人優勝したのを知っていますから」


「断りゃいいでしょ、そんなもん」


 ハァ、とため息をつく双葉。


「断れるものなら、とっくに断っています。田舎の付き合いというのは、貴方が想像しているより厄介なのですよ」

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