第219話:上手くはいかない
八索、中、七筒と並べたことにより、クスリと笑う由香。当然だろう。3巡目で和弥は手を変則と宣言してしまったのだ。しかし、ブラフを打っている余裕などはない。中途半端なブラフを作っている手間があるなら、聴牌まで進めてひたすら和了に向かったほうがずっといい。
しかし4巡目でも和弥が鳴ける牌は出てこなかった。やはり、牌を絞られている。
(このメンツで変則切り出しじゃ牌を絞られるのは当然のこと。最悪面前で仕上げるんだ)
相手の“戦略的撤退”に一喜一憂してはキリがない。これも麻雀の一部。場合によっては一筒も切り落とすつもりで牌山に手を伸ばした。
ムダヅモだった。現時点では面子オーバーである。二向聴から手が動かず、焦燥感が募っていく。それは後ろで見ている小百合も一緒だ。
(副露は期待できないかしら…)
せめて役牌───白か發が鳴けたら。自分で打ってる訳ではない小百合も自然に拳を握りしめる。
その時である。対面の由香から白が切り出されたのだ。
「ポン」
すかさず鳴く和弥。ある意味“一番鳴きたかった牌”だ。
度を過ぎた慎重は恐怖に変わる。過度な恐怖こそ勝負をする者にとって一番合ってはならない感情である。
由香の罠かも知れないが、和弥は何の迷いもなくこの白を鳴いた。
そして打・一筒である。
(あたしも役牌鳴かれたくらいで日和ったりはしない!)
「リーチ」
由香からのリーチである。
その捨て牌も明らかにおかしい。七対子か全帯公系が濃厚だ。
とはいえ、いまさら作り直すこともできまい。
(チャンタだとすれば2枚目の一筒は危ないが…)
それを分かっているのか、麗美も四萬を出してきた。
和弥のツモは發。和弥も親ッパネ聴牌。
一筒の対子落とし、つまりテンパイ崩ししかない。
(ここまで来たら最後まで押し切るっ!!)
結局、安全牌はひとつもないのだ。だったら僅かに残されている自分のアガリ目を信じ、一筒を叩き切るべきなのではないか。
自暴自棄になっているのではない。この親を降りて由香に和了られたらたら、もう勝利の確率は相当低くなる。
しかし一筒を切った瞬間───
「ロンッ」
声の主は由香ではなかった。パタリと手を倒す恵。
「チートイのみの1,600」
恵は由香のリーチ棒も回収した。
「君にしちゃ分かりやすい対子落としだったね」
「…多少捨て牌に細工したつもりだったがダメだったな」
2,000点を渡し、400点を恵からもらう和弥である。
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