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第19話:スカウティング能力

「こっちの卓は終了よ、竜ヶ崎くん」


 トップだった小百合が、立ち上がりながら和弥に告げた。小百合と由香のワン・ツーフィニッシュである。

 卓では「つよい………」「さすがU-16のチャンピオン……」という久我崎の部員の声が聞こえた。

 そしていよいよ和弥の番である。

四風(スーフー)牌をめくって席決めをし、決まった席に座った。

 あとから入ってきた久我崎の部員の3人の内、和弥の対面に座る事になったのは鳳凰荘の天上位、『グリーンかりんとう』こと筒井であった。


「Kyokoさんから聞いたよ。君、伝説の雀士の息子なんだってな」


 どうやら筒井は男相手だと饒舌(じょうぜつ)になるタイプのようだ。明らかに一歳下である和弥を、小馬鹿にした目で見ている。


(ワリ)ィが今日初めて会った人間の。そういう質問には答えられないな」


「俺に会いたきゃ、『鳳凰荘』ってゲームにログインするといいぜ。ま、俺は特上卓にしかいないから、会うまで時間かかるだろうけどな」


 早くも勝ち誇ったような下品な笑いを浮かべる筒井。少し出っ歯気味のようで、笑うと歯が2本競り出てくる。


(………そんなゲームの肩書でビビらせて、プレッシャーかけようってハラか。馬鹿かこいつ)


「いや、別に会いたくはねぇよ。そもそもあンたのそのハダカデバネズミみたいな(ツラ)は、街で見かけりゃすぐに思い出すだろうさ」


 一瞬静寂のあと、久我崎の麻雀部員は凍り付き、後ろで休んでいた小百合と由香は、思わず吹き出しそうになった。


「な、なんだとっ!?」


 筒井も歯の事は気にしているようで、激昂(げきこう)して立ち上げる。


「アンタねぇっ!? 少しは言葉に気を付けなさいよっ!! 鳳凰荘の天上位のグリかりさんに………」


 もう一卓でまだ打っている今日子が、このやり取りを見て思わず声を張り上げた。


「うるせぇな。ホウレン草のデヴィット・ボウイだとか。そんな狭い界隈の話を世界の全て、みたいにほざいてんじゃねぇよ」


「こ、このっ!?」


(絶対この子、ワザと間違えてるな………)


 呆れる龍子だが、久我崎部長の麗美は別に怒った様子もない。恐らく女生徒はともかく、男子生徒には鳳凰荘の段位の事を日々自慢しているのだろう。

 しかし、だ。和弥も自分でも驚くほど、プレッシャーの類を全く感じていなかった。

 幼少期に母を目の前で失った時に、自分の中から恐怖を感じるという感情が消えてしまったのは自覚している。


(誰が相手だろうと関係ない。ここに座ったら目指す事はただ一つ。“勝つ事”だけだ)


 (トン)1局。ドラはニ筒。和弥は西家(シャーチャ)でスタートした。

 第一ツモでドラを引くものの、気合とは裏腹に配牌はよれている。

挿絵(By みてみん)

(グッとこない配牌だな………。手なりで234の三色を狙いつつ、誰かがテンパったらオリでいいか)


 期待値とは裏腹に。無駄ヅモは一度だけでドラが重なり雀頭になり、あっさりと聴牌(テンパイ)してしまった。


(ドラドラだが役無しのドペンチャン………三色にもならず、か。

とはいえペンチャンを払う手段がなかった以上、これが最終形だな……)

挿絵(By みてみん)

「リーチ」


 五萬を横に曲げ1,000点棒を置くと『リーチデス!』という女性の電子音声が、久我崎麻雀部部室になり響く。


「早いね。現物」


「俺も。一発は避けておこう」


 和弥の五萬に、下家(シモチャ)と対面の筒井が合わせ打つ。そして上家(カミチャ)は字牌。

 しかし、内心は3人とも和弥を舐め切っていた。


(ケン)もせず東1局(トンパツ)からリーチとはね………。和了(アガ)れなきゃリー棒を無駄にするだけだぞ)


(競技大会で最悪のリスクは東1局で最下位(ラス)候補になる事だ………。このオールドヤンキーみたいな野郎、競技で打った事がないみたいだな?)


(そのリー棒は美味しく頂かせてもらうわ)


 3人の目には和弥はもう、ラス候補としか映っていない。次に和弥がツモッたのは六萬である。


(チ………早まったか。ペンチャン払って五萬残しときゃ両面だったな。

ただ、これで五萬がワンチャンス、六萬もスジ引っ掛けの形にはなってくれた)


 対局者全員が、ツモ切りの六萬に注目していた。


初心者(タコ)とはいえ、いくらなんでも愚形でリーチはないだろう)


 テンパイした筒井は、三萬を切りピンフ・赤1のダマテンに取る。


「ロン」

挿絵(By みてみん)

 裏ドラを確認する和弥。残念だが乗ってはいなかった。


「リーチ・ドラドラ。裏はありません。5,200(ゴーニー)


 筒井は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべながら点棒を支払う。


(シビアな競技大会のトレマだっていうのに、役無しドペンチャンでリーチか………。こいつ、聴牌即リーしか頭にない相当なタコだな?

大丈夫だ、まだ挽回出来る)


 他の2人も同じ考えだった。しかし和弥だけは、この時点で勝利を確信する。


(麻雀で腕がそこそこ互角なら、その上で勝敗を分けるのは『相手を読む力(スカウティング)とブレずに打てる、か』だ)


 点棒をしまった和弥はゆっくりと、牌を雀卓の開閉口に落としながら悟った。


(お前らの失敗は今ので俺を麻雀憶えたての数合わせ部員だ、と思いこんじまった事だ。その代償は点棒って形でガツンと支払ってもらう。覚悟しておけ)

月・水・金曜日に更新していきます。

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