第215話:かわされる
由香の手の中から出たのは中だった。
「「「!?」」」
───次のツモ番である和弥はすぐには手を伸ばさず、麗美の様子を確認していた。それによって生まれた一瞬の空虚が、まるで時間が止まったかのような感覚を小百合に抱かせた。
「なんだい。鳴くのかい?」
5秒ほど待ったところで、和弥が口を開いた。
しかし麗美は苦笑いをするばかりである。
「……1枚もないのにポンする馬鹿はいないでしょうよ」
「そうかい。じゃあ遠慮なくツモらせてもらうぜ」
ツモ山に手を伸ばす和弥。そこでようやく、小百合は止めていた息を吐き、時間が再び躍り出したのを確認した。張り詰めていた緊張が解けると同時に、浮かび上がる疑問の答えをなんとか導き出そうと頭を回転させる。
由香に、中が通るという確信はあったのだろうか?この局が始まってからいまに至るまで、ヒントと呼べるものは一切なかったように思えるが……。
「この状況で中を叩き切ってくるなんてね。綾乃も自分のとこの部員、いい教育してるね」
「あいにくですが。あたしは父以外から麻雀教えてもらったことはありません」
「あら、どういう意味?」
「言葉の通りです」
由香の表情からは、すっかり笑顔が消えている。
「あーはいはい……綾乃のとこってほんといい性格した部員ばっかだわ」
「───そんなに褒めるなよ。頬っぺたが赤くなるだろ」
相変わらずの、和弥の減らず口である。
(竜ヶ崎くんのように視線や姿勢や牌の出どころから中がないのを見抜いたの?そこまで分かるものなの?)
正直、自分より下に見ていた由香の雀力に驚いた、というのが正直な意見である。
だが、中を切ったのは「100%ポンもロンもない」とした由香の判断だ。そしてそれは当たった。適当な出任せでないことは確かだろう。現に、麗美は素通ししたのだから。
次の巡目。
「リーチ」
「!?」
今度は由香のリーチである。
(判断材料無しか…。久我崎の部長さんが中をツモるとか、そういう事は考えない訳だ)
由香の捨て牌を見て、心で舌打ちする和弥。
しかし今度は和弥もツモ番で聴牌する。
カタリ、と点棒入れを開けた。
「リーチ」
『リーチデス』という女性の電子音声が鳴った瞬間───
「ロン。一発」
(チ…決め打ちだったのか)
「安目で裏は無し。3,900」
「ほらよ」
4,000点を払い、100点をお釣りをもらう和弥だった。
由香が一歩リードである。
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