第213話:かわし合い
後ろから見ていた小百合は、この時は楽観していた。この巡目でこの形なら、流石に先制の聴牌を入れるのは和弥だろうと思っていたからだ。
しかし、有効牌を引き入れることも、副露ができる牌が切り出されることもなく、3巡が経過した。
次巡、和弥は引いてきた三枚切れの西をしばし見つめたあと、それを手牌の横に置いて代わりに五筒を切った。
手広く構える和弥には珍しいが、もうドラポンも六萬ポンも不可能と判断し、爆弾になり兼ねないドラを処理したのだろう。
しかし和弥のこの判断は、理解出来る。麻雀とは4人でやるもの。受け入れを広くするために持っていた牌が将来的に他家のロン牌となってしまう可能性は決して少なくないのだ。
以前小百合が和弥に効率論を投げかけた事がある。
『完全一向聴の形にするのか』『それとも安全牌を抱えていたほうがよいのか』というものだった。その質問に対しする和弥の答えは『他家の状況や巡目による』というものであった。
言われてみたら他家が聴牌するまでは完全一向聴の形で構え、そろそろ危険だと思い始めたら抱える牌を安全牌に切り替える───ということだと思われる。
以前のことを振り返れば、和弥はこの辺りが限界だと判断し、五筒を切って完全一向聴の形を放棄したのだろう。
この選択が吉と出るか凶と出るか───その答えは、わずか1巡で判明することになった。
「リーチ」
五筒を切った直後、麗美がリーチを宣言した。当然彼女の捨て牌に筒子はなく、もしも持ったままであったら手詰まりとなってしまっていただろう。
小百合は心の中で驚嘆していた。流石としか言いようのない、まさにジャストのタイミングである。これで危険牌を切ることなく聴牌できる可能性が残された。勝負はまだ分からない。
しかし───どれだけ上手く打っても必ず勝利するとは限らないのが麻雀だ。麻雀の女神の気まぐれが、今回は和弥に牙を剥いた。
引いてきたのは、二筒。ドラスジである。簡単に叩き切れるような牌ではない。和弥はその牌を手にしたまま、麗美の捨て牌をじっと見つめてしばし固まっていた。
5秒ほど経過したところで、和弥は二筒を手牌の横に置き、現物の東を切った。
(まあ。そうよね…)
恵も現物でオリた。次の切り番である由香はツモった牌には見向きもせずに手出しで初牌の北切り。おそらくベタオリの暗刻落としだと思われる。
そして麗美の一発目のツモ。幸い、その牌が手元に引き寄せられることはなかった。河に四筒が並べられる。しかし和弥はピクとも動かない。
(私がの立場だったら、反射的に鳴くかも…)
和弥は一瞬の躊躇も入れることなく、それを見逃しツモ牌に手を伸ばした。引いてきたのは七筒。
流石と言うべきか。無論それを引いたのはただの偶然かもしれない。だが和弥に限ってはただの偶然という言葉で片づけられない気もしてしまう。
和弥は麗美の水瀬さんの捨て牌をちらっと一瞥したのち、ワンチャンスの七萬を切り出した。これもやはりセーフだった。
(花澤さんの捨て牌…また謎ね…)
変則的な切り出し。全帯公や純チャンを作るのが大得意な麗美だ。イヤな予感が漂う。
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