第209話:面前への解釈
3回戦目は和弥の勝利。これで2勝1敗。
トップを取ると勝つが、しかし麗美か恵が浮上した時に勝つのは由香だ。
いよいよ4回戦目。
南2局、由香の親番。ドラは三萬。
(本当に強いね…。それに由香ちゃんも、ウチの賭場で持ちこたえるだけはあるよ…)
普通に考えて、今の和弥に挑むのは無謀な行為だ。
恐らく紅帝楼の客全員、和弥に勝ってやると思い挑んでは負けていってるのであろう。
しかも今和弥の対面に座っているのは和弥の部活仲間なのだ。
(見ていてこんな面白い勝負はないわ。この半荘だけは、リングサイドで我慢してあげるわよ)
8巡目。由香のツモ。
見事に急所の三筒を引き、聴牌。
由香は静かに牌を切り出す。
(チ…張ったか。索子の下は捨てられないな)
和弥も警戒を強めるが12巡目。
「ツモ」
ラス牌の二索ツモである。
(その聴牌形でそれツモるのかよ)
「4,000オール。リーチすれば良かったかな」
「誰かから一発消しの鳴きが入るかも知れんぞ?」
「どうだろうね。でも、そうじゃないかもしれないでしょ?」
挑発にしかかる和弥は珍しい。少なくとも自分は見た事がない。小百合は少々動揺する。
一方、麗美は妖しく微笑を浮かべた。
(───さて。この今の親満はデカいな。だが諦めんぞ。勝つのは俺だ)
一本場。
「ツモ。役牌のみ300・500の一本場で400・600」
「相変わらずしっかりしてるわね」
「グズグズしてると連荘されるからな」
南3局。ドラは九索。
いきなりドラ切りの由香。
(いきなりドラかよ。あと2回和了ればいいだけだし、そりゃそうか)
場が重い。いや、重いのは場だけではない。全国大会よりも遥かに重い空気が、この卓を支配していた。
「ツモ・七対子。800・1,600」
珍しく麗美の親があっさり流された。
いよいよ南4局。和弥の親である。
「和弥クンの麻雀って、鳴くこともあるけど基本面前だよね。裏ドラのない完全競技ルールでもそれ貫くとは、思わなかったよ」
それは小百合も同感だった。自分も含めて牌効率・打点重視の面前派はひと山いくらで売るほどいる。しかし打ち方を固定するような雀士は返って中途半端な麻雀を打って、自滅することが多い。
五条歩美がまさにそのパターンだった。
しかし和弥は、徹頭徹尾基本面前の好形ではリーチだ。
そういえば、以前和弥が紗枝に話していた。
『オーラスのトップ以外、面前でアタリ牌が5枚以上残っていたら基本リーチに行く』
押さば押せ。引かば引け。外見とは裏腹の麻雀マシーン。
それが竜ヶ崎和弥だ、と。
「逆だよ。リーチすりゃ役が一翻増えるだろ。偶然要素がないから猶更だ」
和弥は競り出て来た牌を無造作に取っていく。
「ねえ。和弥クン。南2局の親満。和弥クンならリーチした?」
「…ああ。俺ならしたな」
和弥はゆっくりと牌を捨てる。
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