第201話:いるべき場所
第九章開幕です!
「はい~、コーヒー2人前にカレーライス2人前、おまたせ~」
もう10代は和弥以外いない紅帝楼のフロアに、メンバーの声が響く。
午後8時。ハタチ未満の学生は、和弥を置いて全員撤退した。
「そういえばカズちゃん、優勝おめでと」
同卓している中年男性が和弥に話しかける。
「ありがとうございます」
和弥は曖昧に頷く。
「じゃあさ。ウチの常連の嬢たちとお見合いでもしてみるかい? プロも結構来るよ」
冗談交じりに別の雀荘店経営の男性が言うが、和弥の表情は変わらなかった。
「勘弁してください。そんな時間があるなら麻雀打ってたいです」
「……そっか。まあ、学生のうちからプロとばっかり打ってると、感覚がマヒしちゃうからね」
「いえ、俺なんてまだまだ未熟ですから……」
(いや、単にプロ雀士になんて興味ないんだけどな)
和弥は内心呟いた。
「そういえば、キミの知り合いでプロになった人って誰かいる? 同期や先輩とかでもいいけど」
「…いませんね。プロ経験者は一名いますが」
言うまでもなく龍子である。
(…考えてみたら、先生だけだったな。心から完敗って思えたの)
「そっか。まあ、プロになんて興味ないよね」
そうこうしていると、閉店の時間だ。
「あらやだ……もうこんな時間? それじゃ竜ヶ崎くん。またね」
「またな。カズちゃん」
「はい、お疲れ様でした」
中年男性たちと別れて、帰路に就く和弥である。
(麻雀か……)
しかし今日ばかりは麻雀の事も考えず、ただ家路を急ぐのだった。
北高田町に残された、いや半分自分の意志で残った───人間たちが、さて今日はどこで朝まで遊ぼうかという選択があらかた終わる午前0時。
夏休みの半分を大会に費やし、何をしてるんだ俺はと自分自身に苦笑いをしたが、確かに燃えた感覚が和弥にはまだ残っている。
麗美、恵、鳳美里、さらに性格はともかく二条歩美……性格はともかく、歯ごたえはこれまで打った誰よりもあった。
あれだけ下らないと思っていた学生麻雀だが、今は小百合の勧誘に応じ大会に出て心から良かったと思っている。
(でもやっぱり、俺の居場所は紅帝楼なんだろうな)
Ninja400のアクセルを吹かし、マンションへの帰路を急ぐのだった。
(ま、ただ次のトレマまでは、幽霊部員状態が続くだろうがな)
シャワーを浴びてそう考え、眠ろうとしたその時だ。スマートフォンが振動する。
こんな時間に誰だと見ると、相手は小百合だった。
「もしもし」
『あ……竜ヶ崎くん?』
その声はどこか困惑しているようだった。
「どうした? こんな時間に電話なんて」
『あの、あのね……』
(なんだ? 何か言いにくい事か? まさかまたトラブルでも───)
『今ね……私、家にひとりなの。それでね……』
「───なるほど」
和弥は納得したように頷いた。
『泊めて……もらえないかしら?』
(やっぱりか)
何となく察しがついていた通りだ。
「はぁ……分かったよ。今から行くから待ってろ」
『ありがとう竜ヶ崎くん』
電話を切ると、和弥は小百合の指定した場所へ向かうのだった。
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