第196話:あと一周
立川南控室内の空気も、空気清浄機を置いてるにも関わらず息苦しいモノになっていた。
「なんとか首をつないだハネ満だったね…」
「でもまだまだ、トップには程遠いじゃん…」
由香と今日子が絶望的な表情を浮かべる。が───
「でも、私は……彼ならやれると信じているわっ!!」
小百合が自分に言い聞かせるように叫ぶ。
南3局。いよいよ麗美の親。ドラは二索。
恵が牌を取った瞬間、空気が変わった。
(ポーカーフェイス気取ってるが…。今一瞬だけど明らかに『デカい手が入った』って顔しやがったな)
麗美や恵からしか感じない、この足元から冷気が這いあがってくるような気配。
(だがここでは退かねぇぞ)
3巡目。
「ポンッ!!」
和弥から出た中をすかさずポン。
今度は麗美から白が出る。
「ポンッ!!」
すかさずこちらもポン。
卓の上に緊張感が走った。
大三元───その可能性を疑わない者はいないだろう。
まだ和弥の親番は残っている。しかしその前に恵に放銃して飛ばされたら、つまり0点以下になったら……その時点で和弥のの最下位は決定する。
(……だけど、諦めるわけにはいかない。ここで撤退なら中なんて最初から絞っている)
和弥は俯きかけた顔を上げた。
逆転しなくちゃ、小百合に合わせる顔がない。
一方、麗美がツモったのは、なんと發。
(いや、待って。よりによってこれが来る?)
一度は勝負しようかと思った麗美だが───
(……さすがにこれ打ったら麻雀じゃないわ)
当然のようにベタオリを選択する麗美。
一方、ドラの3枚使いをいかせる聴牌をしたことで、下家は迷っていた。
(リーチをかけりゃ、安目ツモでもハネ満…。高目ツモなら倍満…しかしあの鳴きに發切りは…)
葛藤した下家だが、意を決して發に手をかける。
(これ切るならリーチだっ!!)
「リーチッ!!」
マナー違反と言われても仕方ない強打でのリーチ。しかし恵からロン宣言はなかった。
「ははは…通ったみたいだな…」
和弥が捨てたのはドラ表示牌の一索。
(ここで發切りをしたり、一索を切ったり…私に負けないくらい野蛮人ばっかりね)
發に手をかける麗美。
(まあ勝手にしてちょうだい。メンツ崩した以上、ここはベタオリ一択だわ)
先ほど通った發を切った瞬間だった。
「ロン」
「は?」
ロンの発声者は和弥だった。
「いや、はじゃなくて。だからその發がアタリなんだよ」
和弥はパタリと手牌を倒す。
「ダブ南・發・ドラ1。8,000」
「さっきの發見逃してまで私から…。もし振り込んだら一気に最下位まである場面よ?」
「あンたさっき發を掴んだ瞬間、ベタオリしたろ。分かりやすすぎるベタオリだったぜ」
和弥は卓上の上の8,000点を握りしめた。
「黙ってたらあンたからも出るのは分かってるんだ。何を慌てる必要あるんだよ」
和弥は点棒入れに点棒を入れる。
「振り込みをビビり過ぎて振り込んじまったな」
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!